曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~stand soji(スタンド・ソジ)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。


   路地裏には、路地裏の良さがある 

大阪府・西田辺   stand soji(スタンド・ソジ)  

 ■ 立ち呑み感覚で気軽に飲れるバー

大阪・天王寺区に西田辺という町がある。地下鉄御堂筋線で行くと、天王寺駅から二つ南にあたる。今でこそ御堂筋線は、堺市の中百舌鳥まで延びているが、かつては西田辺が終点だった。それより南から都心へ勤めに出ている人は、西田辺まで地下鉄で来て、あとはバスを待つ。そんな光景がずっと以前はあったと聞く。

だからかもしれないが、西田辺には飲食店が多い。駅からすぐの裏通りは、西田辺一番街センターと呼ばれ、スナックなどが立ち並んでいる。

 

そんな一画に立ち呑みスタイルのバーがある。名前を「Stand soji(スタンド・ソジ)」といい、杉本聡司さんが5年前に始めたバーである。杉本さんはこのバーを営むまで、全く飲食業界とは無縁だった。苗場のスキー場で、ゲレンデのパトロールの仕事をしており、営業前の点検やケガ人の対処を始め、いわゆるゲレンデの管理の仕事をしていた。

 

スキーやスノーボードと深く関わる仕事ながらも、やはり楽しみは仕事の後の一杯。好きでお酒をよく飲んでいたという。

 

そもそも西田辺出身の杉本さんは、苗場で仕事をしながらも地元で行きつけのバーを持っていた。「バー・カバサ」だ。ある時、杉本さんは何となく、「バーの仕事がやってみたいな」と思い、「バー・カバサ」の村松さんに相談した。すると、村松さんは「教えてあげるから、やってみたら」と背中を押してくれたそうである。こんな経緯から「スタンド・ソジ」は始まっている。西田辺という馴染みある土地の、駅すぐの場所、しかもスナックが沢山ある路地裏に店を求めた。

スタンド ソジ(Soji)

スタンド ソジ(Soji)

スタンド ソジ(Soji)

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杉本さんは、バーを楽しむ入口として「スタンド・ソジ」を立ち上げている。
できるだけ入りやすくするために、あえてガラス張りにし、そこで集う光景を道行く人達に見えるようにした。店は小さく、10人も入れば一杯になる。

しかし、杉本さんは「中10人、外100人」と笑いながら自分の店を表現している。

外100人とは、路地も店のうちとの意味。まるでテイクアウトでもできるかのように、道に面した壁に窓を造り、それを開け、外にも椅子を置いて営業している。この窓から客は酒を注文し、混んでいる時は外で飲るのだろう。
一個の店というよりも、まさに街と一体になったバーである。

 

街と一体といえば、5月19日にこの西田辺一帯では「西田辺まちバル」なるイベントが開かれた。

これは西田辺にある50軒の店が協力して行ったもの。街をひとつのバルに見立て、西田辺を飲み歩いてもらおうとの主旨だ。

 

「スタンド・ソジ」もこのイベントに参加しており、準備段階の4月末には、杉本さんも他店の人と打ち合わせを熱心に行っていた。

そんな状況下で、私は杉本さんと酒談議をしている。私の前には600円と、かなりリーズナブルな「白州10年」のハイボールが置かれており、それを飲みながらこのバーを楽しんでいるわけだ。17時という少々早い時間帯、外はまだ明るい。ガラス戸を通して外光が入り、その光でハイボールは、キラキラ輝いている。爽快感を求めてやまない、この時季にはピッタリなお酒であろう。

 ■ ラフな感覚で味わう「白州」のハイボール

安価なこの店で、ハイボールといえば当初は、やはり角瓶だった。
それが、杉本さんが「白州10年」を薦めはじめてから、客の嗜好は「白州」のハイボールへと変わりつつある。

私はこの店へ入って、すぐに「白州10年」のハイボールを注文したわけだが、杉本さんは「今はミントの季節なので、ハイボールにミントの葉を入れている」と説明して作ってくれた。
4月から夏の終わりぐらいまでは、「白州10年」のハイボールにミントを入れているのだとか。

「白州=森林のイメージがあるでしょ。それにすっきり感をさらに醸し出すには、ミントの葉がいいんですよ」と杉本さんは言う。

そして「ミントの葉は、シソと同じように葉自体の形状が粒状になっているんです。圧を加えてやると、香りが立ちます。だから手で圧を加えてからグラスに入れます。そうすると、ミントのいい香りがするんですよ」と付け加える。

 

「スタンド・ソジ」では、「白州10年」のハイボールを注文すると、まずグラスに氷を入れて13回転半ステアする。

そしてカウンターの後ろに吊るしてある「白州10年」を30ml注ぐのである。

そこに炭酸を60mlゆっくり注ぎ入れ、ほんの少しステアして提供する。

最後にほんの少しと表現したが、ほぼステアをしていないと言ってもいいくらいだ。
これは混ぜてしまうと、ソーダ感がなくなってしまうとの考え方から。常連客がある日、杉本さんに「混ぜないで」と注文したことから始まっている。

炭酸は揮発性が高い。だから注ぐだけでも十分。その有している揮発性でウイスキーを混ぜてくれるというわけだ。

「お客様の言うように自分も試したら旨かったんですよ。混ぜることで、炭酸を飛ばしたくないんですよね」と杉本さんなりのこだわりを垣間見せる。

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杉本さんは、サントリー白州蒸溜所へ行き、その製品の良さを再確認したひとりだ。同じような地域のバーテンダーばかりが一台のバスに乗って、白州蒸溜所へ行く。そんなツアーに参加して、帰って来ると、誰もが「白州」の虜となってしまうらしい。
「関東から研修でバーテンダーが来ていたんですよ。彼らはみんなジャケットを着用し、ピシッ!としているんですよね。それに比べ、大阪南地区の我々は、行きのバスでウイスキー三昧になっているせいか、どちらかというとラフな感じ。いわば、遠足気分で楽しんでいるわけです。
その証拠に、樽焼きを見せてもらうんですが、樽の内側を焦がすといっても、まるで火事のよう。すごい火が出ているんですよね。そこへ柄杓(ひしゃく)に汲んだ水をかける。すると、一瞬で燃えさかる火が消えてしまうんですよ。その神技に私達は、まさにスタンディングオベーション状態でした。
現地の人によると、関東の人とはやはり反応が違うらしいんです。世間でいうように大阪の南地域は、ラテン的かもしれませんね」

 杉本さんは「評判がいいから」と言ってハイボールにスモークチーズを添えてくれた。
このチーズは市販のものをウイスキーオークのチップで自ら燻して作っている。スモークしている分、香りが立つので、スモーキーな「白州」にフィットするというわけだ。
「実はこの作り方は、帝塚山にある『乃上』の料理長に教えてもらったんです。自分でやってみると、美味しくできたので、『このハイボールにはコレ!』と言って薦めるようになりました。お客様の反応もいいですよ」。

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カウンターの後には、ウイスキーやリキュールのボトルがズラリと並んでいる。
しかし、スペース的な問題もあってラインナップする酒も変わることが多いようだ。

吊るしてあるのは、「白州10年」「山崎10年」と焼酎の3本だけ。以前は「山崎」が一番右にあったらしいが、白州蒸溜所へ行ってから、「山崎」と「白州」の場所を替えたらしい。
「やはり関西に蒸溜所があるからか、『山崎』は馴染み深く、好んで飲む人も多いんですよ。でも『白州』は、たまに"しらす"と読む人がいる。そんな人にもこの味を知ってもらいたくて手前(右側)にその瓶を吊るすようにしたんです。すると、『ソレ、ちょうだい』って指さす人が増えました。だから今では『白州10年』がよく出ていますね」と説明してくれた。

杉本さんによると、そんな人は、10年で入ると、必ず12年の味を確認してくるそうだ。「値段と味のバランスが実にいいウイスキーだと思います」と話してくれた。

 杉本さんは、「個人的には」と前置きした上で、「白州12年」を氷なしの半ソーダで割って飲むのが好きだと言う。
そんな時は、いつもより少し多めの35mlを注ぎ入れる。そして1:1の割合で作るのだとか。
「もったいないって言う人もいますが、コレが実にいいんですよね」
この店では、限定品が出れば置くようにし、ウイスキー好きの客に薦めるのだとか。

私が行った日は、偶然にも「白州シェリーカスク」が入荷した日であった。それを杉本さんが飲みながら「この酒は重厚感があっていいですね。シェリー樽で寝かせているせいか、ワイン的な要素を持っていると思いますよ」と話していた。

「白州」は山のイメージが強い。しかし、このボトルはそれよりシェリー樽の持つ風味が勝っている。甘さや香りがあって、ラムに近い味を持つ。そんなイメージを杉本さんは、「白州シェリーカスク」に抱いている。
そして、「ゆるんでくると、『白州』の味に戻ってくる感じがしますね。ピート香の抜ける風味は、やはり『白州』独特のもとです」と感想を述べていた。

 杉本さんは、来店客に対して「値段が安い分、求めないで」と言っているらしい。「シェイクして」と注文する客には「時間と余裕があれば...」と言って断ることもあるのだとか。
それが何とも路地裏のバーらしくていい。そのラフさが立ち呑みの良さだと私も思う。
杉本さんは、自店を称して「立ち呑み屋の延長にあるバー」と表現する。そして一般的な立ち呑み屋で楽しむ人が、この店へ来てバーの楽しさを体験し、巣立ってくれれば、と考えているようだ。

西田辺と、少し郊外にある地で、バー文化が育っていく――。
そんな光景を「スタンド・ソジ」で見た気がする。

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Stand soji(スタンド・ソジ)


お店情報
住所/大阪市阿倍野区西田辺1-2-20
TEL/06-7896-0220
営業時間/17:00~翌1:00
定休日/日曜・祝日

メニュー
白州10年         600円
白州12年         800円
白州シェリーカスク     900円
山崎10年         600円
オールド          500円
マッカランファインオーク12年 800円
ラフロイグ10年      600円
ジントニック        500円
ロングカクテル       500円
フレッシュフルーツを使ったカクテル 600~700円

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