2012年06月14日
曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~BAR・街のあかり~
曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」
酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。
■ バール使いもできる本格バー
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このところ南大阪地区に出没している。仕事ではない。勿論、飲みに行くためだ。
阪神間やキタになじみが深い私にとって、天王寺以南は少々縁遠い場所。 でも堺には名店が多く、腕のいいバーテンダーも沢山いる。だからこうして南大阪地区飲み歩き月間を作っては楽しもうとしている。
「BAR・街のあかり」という店は、堺に住む知人に以前からその名前を聞いていた。
堺では有名なバーらしいが、何せ泉北高速鉄道の深井駅前にあり、堺市街ならいざしらず、なかなか行く機会がなかった次第である。だが、私の事務所がある北浜(大阪)からでも地下鉄でまっすぐ南下し、中百舌鳥駅で泉北高速へ乗り換えて一駅。意外と近いことに気づいた。
深井は泉北にあるベッドタウンのような街。 その先にある泉ケ丘も同様だが、そこまで行くと、あまり店がないために、泉ヶ丘や和泉中央に住む人は、ここで途中下車し、飲食店に立ち寄るケースが多いという。 そのためか深井駅前には、居酒屋などが立ち並んでいる。「街のあかり」もそのひとつで、駅から歩いて2分とかからない場所にある。
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「街のあかり」という店名から想像できるように、店の名前はチャップリンの映画「街のあかり」から取られている。想像するに、オーナーの中井純一さんが、深井に灯るひとつのあかりになろうと、その名をつけたのかもしれない。
現在、店長を務める小田健吾さんは、「中井さんがその映画が好きだったことと、店名をつける際にイメージ的にピン!と来たから」と答えている。
「街のあかり」がオープンしたのは15年ぐらい前、当初は駅中のショッピングセンターにあったらしく、「もっとバーという場を楽しんでもらいたい」との思いから8年前に店の内容を充実させ、この場所に移って来た。
キャッチフレーズは"お酒もフードも充実!バール使いもできる本格バー"。カウンター奥には50型のテレビが据えられ、店名にちなんでチャップリンの映画が映し出されている。
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前述のようにこのバーは、中井さんが作ったもの。 でも、中井さんは中百舌鳥にイタリアンバール「オステリア&バール・ルチェンテ」をオープンさせたので、そちらへ行き、その後は、小田さんの師匠にあたる鮎川正徳さんが店長を務めていた。鮎川さんが辞めた後は3代目店長となる小田健吾さんが取り仕切っている。
小田さんは、サラリーマンを経てこの道へ入った。サラリーマン時代にお酒が好きでバー通いをしていたらしく、堺東の街で飲んでいた時にバーテンダーの友達もできたのだと話す。
この世界にある種の憧れを抱き、思い切って飛び込み、「街のあかり」で職を得た。
就職が決まって中井さんから「勤めるまでに旅行に行ってきたら」と背を押され、スペイン、フランス、ドイツを40日間かけて巡ったそうだ。その旅行中に出会ったのが今のフィアンセ。
小田さんはスペインで知り合って7日目にプロポーズ。言葉がわからず、辞書を片手にくどいたらしい。だから今はスペイン人の婚約者と遠距離恋愛中。すこぶるかわいいスペイン女性の写真を見せてもらったが、本当にうらやましい限りである。
店へ来て1時間もたっていないのに私は小田さんと、こんなプライベートな話をしている。 バーテンダーは話すのも仕事のうち、だから話し上手が多いのだが、こちらも取材するのが仕事。だから初対面なのにおのずと距離感は縮まっていく。それにこんな雰囲気にさせてくれる力を「街のあかり」は持っているのかもしれない。
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■ 女性にロックで薦めたいプラムリキュール
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私はハイボールでまず喉を潤し、カウンターのボトルを眺めていた。すると、「プルシア」が目に入った。
この酒は南フランスのプラムで造ったリキュール。プラムを漬け込んだぶどう原料のスピリッツを、ブランデー樽で寝かせている。南フランスの陽光を浴びて育った高品質の生食用プラムを原料に使っているのと、ぶどう原料のスピリッツをベースに使用することで、プラムのフルーティーな味わいが引き出される。数カ月間タンクで漬け込んだプラム浸漬酒を、さらにブランデーの古樽へ移し、寝かせることで芳醇な味わいが生まれるのだという。
何を隠そう、私はけっこうこの酒が気に入っている。どこのバーでもこのボトルを見つけては、オン・ザ・ロックやソーダ割りを作ってもらっている。小田さんにそのことを話すと、「うちでは『プルシア』がよく出るんですよ」と教えてくれた。酒がそう強くはない女性には、ウイスキーは強(きつ)すぎる。それで「プルシア」のロックを薦めるのだと小田さんは言う。「街のあかり」では、その際、特別な氷を使う。それは氷の中にベルローズなどの食用花を入れて作ったものだ。その作り方は秘密だそうで、小田さんの話によると、一日に3個ぐらいしか作れないという。「ロック氷の中に花があったらきれいでしょ。女性は特に喜びますよ」と小田さんは言う。
話のタネにもなるからあえて「プルシア」のロックが注文された時に使っているそうで、どうやら女性優先のようだ。「色んな酒を揃えてはいますが、女性にロックで薦められるものは、はっきり言って少ないんですよ。だからうちでは『プルシア』は重宝しています」と小田さんは話す。
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私も「プルシア」のロックを注文しようかと思ったが、女性優先と聞いた花の入った氷を使ってもらうのもなんなので、「これを使った面白いカクテルがあれば...」と小田さんに委ねてみた。
すると、小田さんはシェイカーに「プルシア」を30ml入れ、さらに抹茶のリキュール(10ml)と紫蘇のリキュール(5ml)、そしてレモンジュース(10ml)、アーモンドシロップ(10ml)を注ぎ、氷を加えてシェイクし始めた。ある程度シェイクしたらそれをカクテルグラスに注ぎ入れ、「シルエリータです」と提供してくれた。
緑色が鮮やかなこのショートカクテルは、甘みの中に、酸味が利いている。「プルシア」を用いているだけに梅のような味もし、さっぱりして飲みやすい。甘みはあるが、甘すぎることがないために男性でも十分旨いと感じるだろう。
「オリジナルですか?」と小田さんに問うとどうやら即興に近いもののようだ。以前から「シルエリータ」と名づけたカクテルを作ってみようかと考えていたところに、私が「プルシアを使ってカクテルを...」と言ったものだから作ってみたとのことである。
「シルエリータ」とは、スペイン語で小梅を意味するそう。この言葉の響きが気に入っていたのか、小田さんは青い(緑)イメージをつけようと、抹茶のリキュールを用いている。それに「プルシア」と紫蘇のリキュールがうまく合うと考えて、それも使った。さらにレモンジュースを加えることで酸味を調えているのだ。なぜ普通のシロップでなく、アーモンドシロップを使ったんですか?」と言う私の質問に、小田さんは「アーモンドシロップには若干酸味があるので...」と答えてくれた。甘ったるくしないために、あえて用いたのだろう。
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以前から小田さんは、「シルエリータ」という名前を新作に使おうとあたためていたそうだ。
バーテンダーは、新作カクテルを考える際に、まず名前をつけ、そこからイメージをふくらませる人が多いと聞く。どうやら小田さんもそのタイプで、実生活の中で「これはいい!」と思った言葉をノートに書きとめている。そして語感がよく、覚えやすい言葉をそのノートから引っぱり出しては、カクテルを考案していく。
「カクテル自体を作ってから名前をつけてもいいんですが、そうするとイメージが広がらないような気がするんです。小田さんによると、ネーミングはスペイン語のものが多いのだとか。どうやらスペイン女性とつきあっているのが影響しているきらいがある(笑)。
「シルエリータ」を飲みながら小田さんと話していると、色んなことに話が展開していく。それが私にとって実に心地いい。
興味深いところでは、小田さんが師匠から聞いた言葉。それは「人生の中でもバーに足を踏み入れることなく死んでいく人もいる」という話。
「バーを利用するのは、人口の1割にすぎない。だから店に来た人には、最高のものを出す使命がある」と鮎川さんは言ったそうだ。私はバーで飲むことが好きである。しかし、知り合いの女性は酒を飲まないために、バーに行ったことがない。こうして考えると、バーにリピートする人を大事にしないといけないと彼らが思うのも当然であろう。
そして地元でもない深井でこうして小田さんと出会うのも一期一会である。
一期一会を辞書で引くと、"一生に一度だけ会うこと"と書かれている。私はまた機会があれば、ここに来たいと考えた。そうすると、一期一会という言葉はふさわしくない。では、どう表現すべきか...?そんなことを思いつつ緑鮮やかなカクテルを口に運んだ。
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バー・街のあかり
お店情報
住所/大阪府堺市中区深井沢町3342 プラザOM 1F
TEL/072-277-7749
営業時間/18:00~翌2:00
定休日/無休
メニュー
シルエリータ
白州12年
白州10年
響12年
山崎12年
マッカラン12年
ジントニック
ソルティドッグ
バラライカ
燻製ミックスナッツ
牛ハンバーグチーズ焼き
大人のナポリタン
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1100円
1000円
900円
1000円
1000円
1000円
800円
850円
950円
600円
900円
850円
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↓プルシアの製品情報はこちらから↓
https://bartendersclub.suntory.co.jp/brand/2012/05/index.html