曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~Bar the monarch(バー・ザ・モナーク)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。


   新しい「白州」が根づかせるストレートの旨さ 

大阪・京橋   Bar the monarch(バー・ザ・モナーク)
 ■ 「バー・リー」の雰囲気を受け継いだ店

 最近、関西のバーへ行くと、「白州」を薦めてくれるバーテンダーが多くなってきたような気がする。

関西は日本のウイスキーの聖地ともいうべき山崎蒸溜所が身近な存在としてある。だから「白州」よりも「山崎」の方がなじみ深かった。
しかし、ハイボールがブームになってからか、「白州10年」や「白州12年」でハイボールを作る店が増えた。それに"森薫るハイボール"のキャッチフレーズもうまくはまったのか、客側からもそれを求めるケースも多いらしい。だからということはないが、私も今年になってやたらと「白州」を注文するようになった。「白州」ファンからすると、「今さら」と言われそうだが、森の中で育まれた個性豊かな味が私の嗜好を訴えかけている。

 そんな「白州」から新しいブランドが生まれた。ボトルにはエイジングがなく、白いラベルに「白州」とだけ書かれている。聞くところによると、「白州」ブランドでは4年ぶりになる通年型新商品だとか。白州蒸溜所が持つ多彩な原酒の中から、ブレンダーが理想のモルトを選び抜いて誕生したシングルモルトウイスキーだ。

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 私はこの新「白州」をどこで味わっているかというと、京橋に位置する「Bar the monarch(バー・ザ・モナーク)」という店である。

このバーは京阪・京橋駅片町出口より5分とかからない所にある。ユービック情報専門学校を目印に来て、そのすぐ前のビル1階に入る。玄関はその道の方ではなく、裏手側。階段を少し降り、ビル内を通り抜けると「バー・ザ・モナーク」の入口に辿り着く。

 ここは、そもそも名バーテンダーとして知られる早川惠一さんがスタートした場所。今から24年前に「Bar Leigh(バー・リー)」の名で、オーセンティックバーをオープンさせている。早川さんは、この京橋の店を皮切りに桜宮や北新地で新しいバーを次々と誕生させて行った。いつの間にか北新地がフィールドになってしまい、ここまで手が回らないと、この店を弟子の釜井拡さんに譲ったのである。

釜井さんは、昔は阪急東通り(大阪・梅田)にあるカフェバーで働いていたそうだ。日本バーテンダーズ協会に入ってから早川さんを知り、勉強がてらに「バー・リー」に度々、飲みに来ていたらしい。その後、早川さんの誘いもあって弟子入りし、「バー・リー」のカウンターに立つようになった。「独立する時に、早川さんからこの店を譲り受け、『バー・リー』のままやるという選択肢もあったんですが、本音を言うと、少しその名が重荷に感じたんですよ」と釜井さんは話してくれた。

そして心機一転、船出をしたかったこともあって「バー・ザ・モナーク」に店名を変更したのだとか。今では廃盤になってしまった「ザ・モナーク」というウイスキーが好きで、そこから店名を取っている。さすがにその幻のウイスキーでは作れないために、同じ鹿のラベルを付ける「グレンフィディック」をハウスウイスキーとし、ハイボールを提供し続けている。

 「バー・ザ・モナーク」は、「バー・リー」と雰囲気を変えていないためか、昔からの常連客がよく来るのだという。70代になった客から若い客まで、渾然一体化してこの店の雰囲気を楽しんでいる。年配の人は「若いヤツが来たな」と見るわけでもなく、若い人もうまくその場に溶け込んでいる。そんなムードをうまく保っているのが釜井さんのキャラクターだろう。

 ■ 若い人にこそ飲んで欲しいウィスキー

 「バー・リー」時代から続く京橋のオーセンティックバーに、最近、異変が生じた。異変といっても驚くべきことではなく、最近やたらと20代前半の男女がおひとり様で来るようになったことだ。

流行した角ハイ以外に何か違うものが飲みたいと思ってバーの扉を開けるらしく、そのうちの一人は「友達を誘っても付き合ってくれないから一人で来るのだ」と言っていたそうだ。また、ある女性は、「お父さんからバーの面白さを教えてもらったので」と言って通って来る。まさしくハイボールブームがいい意味でバーの敷居を低くしたのだろう。

釜井さんは、このような若い人にこそ新しい「白州」をストレートで味わってほしいと考えている。「私達の若い頃、スコッチ=大人の味だと考えていたのと同じで、今の若い人はストレート=大人の飲み方のように思っているんでしょうね。割ったりするのではなく、ウイスキー本来の風味を楽しむためには、早いうちからストレートで味わってほしいと考えているんですよ。そんな若い人がストレートで飲んで飲みやすく感じるのが、5月29日に新発売した『白州』じゃないでしょうか」と釜井さんは話してくれた。

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 5月に発売された「白州」は、前述のようにエイジングが記されていない。若葉のような瑞々しく、ほのかにスモーキーフレーバーを備えたモルトと、「白州」らしい複雑さと奥行きを加えた古酒が重なり合って生まれたもの。
釜井さんも「飲んでみると、若い酒だけを使っていないのがわかりますね。ピートは抑え気味ですが、瑞々しい味が特徴的で、クセがないのがいいですね」と評している。

ほのかな酸味を感じさせるすっきりさと、軽快で爽やかな口当たりが、この新「白州」の個性というところか。「なので、ストレート入門編にはピッタリだ」との感想を持つようだ。

 私も「バー・ザ・モナーク」で、新「白州」のストレートを味わったが、これまでの「白州」と違って柔らかい味わいがする。ストレートを飲んだことがない人は、ウイスキーを口に含むと、「キツい」と思うことがある。でも新しい「白州」に限っては爽やかな口当たりがするためにそんな風には感じないだろう。

スモーキーさという点では、従来の「白州」より控え気味だが、ほのかな甘みとすっきりしたキレがある。それを釜井さんは「開けゴマ!的な味わいでいいのではないでしょうか」と面白いたとえ方をする。そして「入門編に適しているとは言いましたが、昔からウイスキーを飲んでいる人でも楽しめるからいいですよ」と絶賛していた。

 「バー・ザ・モナーク」では、「白州」のハイボールがよく出るのだという。

「白州」をソーダで割って出したところ、「こんなにハイボールって旨いんだ」と言ってリピートする人がいるらしい。「これを飲んでピーティーなウイスキーのソーダ割りが旨いと実感できるようになった人がいるんですよ。そんな人には『ラフロイグ』のソーダ割りを薦めてみるんですよ」と釜井さんは言う。

 私がバーに足げく通うようになったのは、今から25年ぐらい前だろうか。その頃、巷ではバーボンが流行っていた。なので同年代の友人と今も飲みに行くと、彼らは決まってバーボンウィスキーを注文する。これこそが青春の味なのだろう。

ところで「バー・ザ・モナーク」でストレートの入門編として新「白州」を飲んだ人は、25年後にもそれを注文するのだろうか。「トリス」が青春だった人、「オールド」とともに育った人、そしてやたらとバーボンを飲んだ人と世代によって嗜好は異なる。しかし、そんな時代を経てきたからこそ、今のバー文化がある。新しい「白州」が若い世代に何を伝えたのか。今から10年後に、もう一度問いかけてみたい。

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Bar the monarch(バー・ザ・モナーク)


お店情報
住所/大阪市都島区片町2-7-25 アンシャンテビル1F
TEL/06-6358-8210
営業時間/18:00~翌1:00
定休日/無

メニュー
白州             900円
白州12年         1300円
山崎             900円
グレンフィディック12年 1000円
響12年           1100円
マッカラン12年      1100円
ジントニック        1000円
ギムレット         1000円
ブラウニー         1000円
※テーブルチャージ   500円

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