曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~C.C.ハウス なかしま~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

ちょっと濃いめが、旨く感じるコツ

大阪府・お初天神 C.C.ハウス なかしま

「カナディアンクラブ」一本で勝負するバー

キタ(大阪)の再開発が進むにつれ、昔ながらの大阪をイメージさせる場所が少なくなってしまった。唯一、お初天神あたりの路地裏にはそんな場所が残っている。

今回訪れた「C.C.ハウスなかしま」は、お初天神の東門から入り、路地を縫うようにして巡っていく。新御堂沿いの大通りから行けばすぐなのだが、なんとなくそんな行き方が似合っているように思える。

「C.C.ハウスなかしま」は、一時期、関西の雑誌連中の溜まり場だった。30代前半の頃には私も足げく通い続けていた。この店は今は亡き中島一夫さんが昭和47年に始めたバーである。私達が「お父さん」と呼んでいた中島一夫さんが醸し出すアットホームな雰囲気がどことなく時間に追いたてられがちな編集マンたちをなごませてくれるのである。そんな中島一夫さんも6年前に72歳で他界している。今は中島一夫さんの奥さんと息子である中島喜一郎さんが店を営んでいる。

お父さんはいなくなってしまったが、「C.C.ハウスなかしま」の雰囲気は前といっしょ。レトロな雰囲気とゆっくり流れる時間はあの頃のままだ。お初天神の路地裏という独特なイメージと相まってバータイムを存分に愉しませてくれる。

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古くから訪れる常連には当たり前になっているが、初めてこの店へ足を踏み入れた人は「エッ!?」と思うことがある。

それは「C.C.ハウスなかしま」には、「カナディアンクラブ」しかないからだ。「カナディアンクラブ一本でやっている店は珍しいでしょ。もしかしたら世界中でもうちだけかもしれませんね」と中島喜一郎さんは笑いながら説明する。

中島喜一郎さんによると、そうなったきっかけは戦後まで遡るのだとか。お父さんである中島一夫さんは当時、ミナミ(大阪)のバーで働いていた。その頃はウイスキーといっても巷で飲めるものはレベルが低かったらしい。たまたま訪れた進駐軍が「カナディアンクラブ」一本を抱えていた。そして中島一夫さんに「コレを買わないか」と言ったそうである。中島一夫さんはそれまで見たことがなかった「カナディアンクラブ」を飲み、この味に惚れ込んだ。そのイメージが自身の中にずっとあり、独立する時に「カナディアンクラブ」を置こうと決めたのである。

出店時の相談者でもあったサントリーの社員に「コレ一本でやる!」と断言して、「カナディアンクラブ」を注文した。すると、相談された側は「まだ知名度も薄いので、『カナディアンクラブ』と言っても誰も知らないですよ」と返して来たそうだ。けれど頑固な中島一夫さんは「ワシが知っているから大丈夫や!!」と言い返し、カナディアンクラブ専門のバーとしてオープンしたのである。
以来「カナディアンクラブ」一本で営業している。

流石に今は5種類あり、「カナディアンクラブホワイトラベル(6年もの)」と「12年クラシック」が棚に並んでいる。加えて「シェリーカスク」と「20年」「30年」があるのだが、その他にバーボンも、スコッチも何もない。あるのは「C.C.」(カナディアンクラブの略称)のみである。

「この店はすでにスタイルができあがっているんですよ。だから来る人は、誰も不思議がりません。初めて訪れた人には『C.C.しかないですよ』って言うんですが、時には『じゃあバーボンで』とか、『スコッチを一杯』なんて言う人もいるんですよ。そんな人に、もう一度説明して『C.C.』を出すんですが、決まって『飲みやすくていいね』なんて感想を言ってくれますね。クセがないから誰にでも受け入れられるんでしょうね」と中島喜一郎さんは話してくれた。

ここで少し「カナディアンクラブ」について解説をしておこう。
「C.C.」はカナダの最南端、ウォーカーヴィルにて製造されている。1856年に青年実業家であったハイラム・ウォーカーが蒸溜所を起こした。その頃、ウイスキーは樽で販売されるのが一般的だったらしいのだが、「C.C.」は製造保証書を付けたボトルで販売。紳士のみが集まる「ジェントルマンクラブ」で人気を博した。
1882年にはアメリカへ輸出、1890年代には高い人気を集めるに至った。
ライ麦とトウモロコシ、さらにオーク樽が醸し出す香りと、スムーズでバランスのいい味わいがウケて全世界にファンを持つウイスキーである。そのファンの第一人者が故・中島一夫さんだったともいえなくもない。

「C.C.」のハイボールとカツサンドの組み合わせ

暑さの厳しい折り、やはり爽快感漂うハイボールが美味しい。そこで私は一杯目に「C.C.」のハイボールを注文することにした。中島喜一郎さんにその旨を伝えると、彼はグラスに大きめの氷を3つぐらい入れて作り始めた。氷の入ったグラスに「カナディアンクラブホワイトラベル(6年もの)」を1ジガー(45ml)注ぎ入れ、冷す程度に軽くステアする。そして炭酸を60mlほど注いで1回ステアをし、提供するのだ。

こう書いたものの、少し訂正がある。それは「C.C.ハウスなかしま」ではウイスキーが45mlではなく、もう少し多めの50ml入っていることだ。中島喜一郎さんによると、「C.C.」はクセがなく、さっぱりしている。だからしっかりと入れないと頼りなく感じてしまうらしい。そしてハイボールにするには、ハーフロックより少し多めの60mlがいいと言う。水割りだと比重が違うのでステアをするのがいいそうだが、炭酸は入れた瞬間に混ざるので本来はステアする必要がない。それがバーテンダーの性(さが)で、どうしてもしたくなるそうで、1回だけステアして出すことにしていると言う。炭酸を注ぐ時は多少勢いをつけて。その方が「C.C.」が香り立つのだそう。

「C.C.はウイスキーに慣れていない人にこそ薦めたいですね。クセがなくて美味しいので、入門編にはピッタリでしょう。うちではコレしかないので、一生懸命『C.C.』のハイボールを作っているんですよ。一口飲んで美味しいと言ってくれるのが最上の喜びですね」と中島喜一郎さんは言う。

ちなみに水割りを注文すると、グラスに大きめの氷を入れて、「C.C.」を50ml注ぎ、12~13回ステアする。そしてミネラルウォーターを60ml入れ、少しステアして提供してくれる。中島喜一郎さんの話では、一応話の上ではミネラルウォーターを60mlとしているが、計っているわけではなく、目分量で入れているようだ。「悲しいかな、我々は上から見て注いでいるわけです。仮りに横からだと、うまい具合に分量がわかるのですが、実際作る時にそうはいかない。ちょっと少ないかなという所で止める。すると八分目になり、丁度いい分量になるんですよ」。

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私が「C.C.」のハイボールを飲む時はアテはいつも決まっている。それはこのバー特製の「カツサンド」である。「C.C.ハウスなかしま」というと、「カツサンド」というぐらい有名で、グルメなら誰もが一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。
「C.C.ハウスなかしま」の「カツサンド」はフィレのいい牛肉を使っている。サシが入ると、冷めた時にしつこく感じるからと、赤身が多い部分を使って揚げている。衣も薄めだから、もっさりせずに食せる。中島喜一郎さんの話では「特に衣を薄くしているわけではなく、カツサンドとして美味しく仕上げたらそうなった」らしい。デミグラスソースなら厚手の衣でもいいのだが、この店ではバターとケチャップ、マスタードでソースを作っているので、衣が薄い方が合いやすいのだと言う。「よくステーキサンドですねと褒めてくれる人がいるんですが、ステーキではこの味は出ませんよ。衣をつけて揚げ、それがソースにうまく絡んでいるので、丁度いい味になるんです。カリッとした感じも旨さを印象づけるポイントでしょうね」と話す。

実はこのカツサンドにも歴史がある。中島一夫さんがクラブの支配人をやっていた時に、コックに作らせたのがきっかけ。当時、クラブではフィレ肉をステーキにして提供していた。しかし、肉が高い時代で、なかなか注文が通らない。腐らせてもいけないので、何かいい方法はないものかと、コックといっしょに頭をひねった。そこで考えついたのがカツサンドだったのである。苦肉の策とはいいながらもコレが実にウケた。そのプランを独立時に思い出し、「C.C.ハウスなかしま」でも出したのだ。だからこのバーの「カツサンド」はフィレ肉を使用している。

この「カツサンド」に「C.C.」のハイボール。この組み合わせほど「C.C.ハウスなかしま」を表すものはない。中島喜一郎さんの会話と、店の雰囲気が合わさり、さらにC.C.が美味しくなっていく。これが忘れられなくなり、人はこの店を目指すのだろう。わざとお初天神東門をくぐり、路地を縫うように歩いていく。この過程も「C.C.」を旨く感じさせる要素なのかもしれない。

C.C.ハウス なかしま

お店情報

住所大阪市北区曽根崎2-2-11

TEL06-6312-2621

営業時間18:00~24:00(但し、来店客がいる場合は延長)

定休日祝・日

メニュー
  • カナディアンクラブホワイトラベル(6年もの)ショット940円
  •                                                              ボトル8400円
  • カナディアンクラブ12年クラシックショット1260円
  • カナディアンクラブ20年ショット1200円
  •                                  ボトル21000円
  • カクテル940円~
  • カツサンド1570円
  • ミノの唐揚げ940円
  • だし巻き630円
  • オニオン山かけ730円
  • カモのスモーク1050円
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