曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~WHITE RABBIT TAVERN(ホワイトラビットタバーン)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

店先に「メーカーズマーク」が置かれているバー

大阪府・中津 WHITE RABBIT TAVERN(ホワイトラビットタバーン)

出すぎず、ひっこみすぎず、全体的にほどよい感じ

 何を隠そう、私はバーボン世代である。働き始め、大人の世界に憧れてバーに通うようになった。その当時、世間でよく飲まれていたのがバーボンで、スコッチとは風味の違う荒々しい感じが20代だった私にフィットした。そして天の邪鬼ながらも流行に乗ったわけである。バーでバーボンをよく飲んだといっても金がなかった時代のこと、できるだけ安価で飲めるものを注文し、ハイボールや水割り、コークハイを楽しんだ。当時、私にとっての高嶺の花は「メーカーズマーク」だった。今から思えば、なぜそんなに高いイメージを有していたのか。多分、今ほど流通が整っていなかったから、少しは珍しい存在に映っていたのかもしれない。

 「メーカーズマーク レッドトップ」の紹介欄を見ると、"品質にこだわり、一本一本丁寧に造られたプレミアムバーボン"とある。一般的なバーボンウイスキーがコーン、ライ麦、大麦麦芽を原料としているのに対し、「メーカーズマーク」は、ライ麦ではなく、冬小麦を使っている。ライ麦だと、どうしてもドライでスパイシーな風味になるのだが、冬小麦を用いた「メーカーズマーク」は、柔らかく繊細な味わいに。それが一般的な荒々しいバーボンと違った印象を与え、プレミアム感を含ませていた。そういった意味から私には余計に高嶺の花に映ったのであろう。

 こんな話をバーのカウンターでしていると、店主である扇田順さんは、「実は私も昔からバーボン愛飲家で、『メーカーズマーク』を好んで飲んでいました」と話しかけてきた。扇田さんの店は中津(大阪)にある。店名を「ホワイトラビット・タバーン」といい、店の前に「メーカーズマーク」の樽がデン!と据えられている。このディスプレイ樽と、その上に置かれたボトルと見ると、その言葉に偽りがないことが誰にでもわかる。「当時、私はまだバーテンダーではなく、ごく普通のサラリーマン。入門編として『アーリータイムズ』などよく飲んでおり、一杯1000円ぐらいした『メーカーズマーク』は少し背伸びして飲むバーボンでしたね。うちの店では現在、1ショット800円ですから、その頃の世間相場がやはり高かったのかもしれませんね」。扇田さんは、現在43歳。私より下の世代なので、私が飲み始めた頃とは少々価格が異なるのかもしれない。それでも他のものより、値がしたことがわかる。

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 ケンタッキー州・ロレットに蒸溜所を構える「メーカーズマーク」は、230年の歴史を有す由緒あるメーカーだ。サミュエルズ家のウイスキーづくりは1780年に始まっている。初めは近しい友人のためだけに造っていたそうだが、1840年に創設者の孫であるT.W.サミュエルズが商用の蒸溜所を開設。秘伝の製法を用いながら本格的なウイスキーづくりを行った。それから約100年後に、4代目となったビル・サミュエルズ・シニアが、これまでのありふれたバーボンではなく、世界に通用するような品質を目指し、試行錯誤を重ねながら今のようなウイスキーを完成させている。「メーカーズマーク」は、冬小麦とコーン、大麦麦芽を独自の配合にして造るわけだが、ビル・サミュエルズ・シニアは小麦の風味を確認するために何百回もパンを焼いて、うまく造れるような配合にしたのだという。創業以来、「バーボンは機械まかせではなく、人の手で丁寧に造るものだ」というのが、サミュエルズ家の精神。かつて英国の白目製装飾器に製造者の印(メーカーズマーク)がつけられていたことから、それにちなんでブランド名をそのものズバリ「メーカーズマーク」にしたそうだ。

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 私の蘊蓄はこのくらいにして、バーの話をしよう。

店先から「メーカーズマーク」が置かれていたこともあって、私は「ホワイトラビット・タバーン」に入るなり、すぐに「メーカーズマーク」を注文した。扇田さんのオススメはロック。「ハイボールという飲み方は、もはや一人歩きしてしまった感があるので、あえて『ロックでいかがですか?』と声をかけました」と言う。味わい的に強(きつ)くもなく、ロックで飲むのに丁度いいバランスを有しているのが、その理由らしい。口に含むと、荒々しいバーボンと違って、なめらかでスムーズな味わいが広がっていく。味、香りとも非常に芳醇で、熟成感がうまく伝わってくる。この味わいを評して扇田さんは、「全体的にほどよい感じ」と言っている。「まさに刺す感じもなく、ほどほどなのが、この酒の特徴。かといってバーボンらしいクセも残っている。出すぎず、ひっこみすぎずがいいんですよ」と話す。

 「ホワイトラビット・タバーン」では、「メーカーズマーク」を45ml注ぎ入れて提供する。私がカウンターでロックをちびちび飲っていると、扇田さんは蝋(ろう)の塊を持ってきてくれた。この蝋こそ、「メーカーズマーク」のイメージでもある赤い封蝋である。何でも扇田さんが現地に行った時にお土産に持ち帰ったものだとか。この赤い封蝋は、ビル・サミュエルズ・シニアの妻・マージーが考えたもの。18世紀に高級コニャックのボトルに施されていた封蝋をヒントにしてつけるようになった。「溶かした蝋に瓶を逆さにして漬けるんですよ。引きあげてひねると、蝋が垂れる。右利きの人と左利きの人では、その垂れ方が異なるそうで、一本一本が違うのだと蒸溜所の人が話していました」。

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  扇田さんは、古いウイスキーと酒にまつわるグッズを集めるのが趣味らしい。旅した時に酒屋やアンティークショップの看板を見つけては入り、気に入ったものを買ってくる。そんな扇田さんが私に見せてくれたのは、1978年の「メーカーズマーク」。スターヒルディスティラリーと名乗っていた頃のもので、本物(?!)の蝋で封してある。「この時代までは、はがす時にポロポロと蝋が落ちていたんです。今ではそうならぬように樹脂が混ぜられ、はがれやすくなっているそうですよ」と教えてくれた。封蝋の所を触れてみると、今と少し感じが違う。開けると、ポロポロと落ちたというが、まさにそんな感じが手に伝わってくる。「メーカーズマーク」では今でも手作業で蝋に浸す工程を行っている。一見、非効率に思えるが、何ごともメリットと効率を考える時代にあって逆に素晴らしく思えてしまう。実は手間がかかる分、人の目でボトルの中身を確認できるというメリットもあるそうだ。

街場の酒場をイメージして作った

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 地下鉄御堂筋線・中津駅からすぐの所にある「ホワイトラビット・タバーン」は、カウンター9席、テーブル6席。それに6名用の個室(部屋代は2000円。何名からでもそれを払えば個室が使える)があるバーだ。扇田さんが2012年にこの場所へ店を移転した際に、ウイスキーを前面に打ち出すのではなく、街場にある酒場をコンセプトにしようと考えて作った。それだけに堅苦しさもなく、かといってラフな雰囲気もない。堅すぎず、柔らかすぎず、「メーカーズマーク」同様、ほどほどなのが似合うバーといえるかもしれない。

 扇田さんは学校卒業してすぐにサラリーマンになった。その頃は、好きでバー通いをしたそうだ。「若い頃なので、バーで見るもの全てが新鮮。バーテンダーさえもカッコよく映った」と言っている。そこで転職し、初めは地元(奈良)のバーで働いた。「うまく就職したのはいいんですが、2日で後悔しましたよ。何でも同じでしょうが、やはり中と外ではかなりギャップがありますね」と当時を振り返っている。奈良の店で勤めているうちに大阪へ出たいと思うようになった。そこで「ナローウォーター」に活躍の場を求めたのだ。

 バーボンの世界で誰もが一目を置く巽誠一郎さん(守口にある「呂仁」のオーナー)に知り合ったのも「ナローウォーター」時代。「そもそもバーボンが好きだったんですが、『ナローウォーター』に来てからはモルトにはまり、スコッチ一辺倒になっていました。それが田中マスターとスコットランドに行った際に巽さんと知り合って、以降はその影響もあってバーボンにどっぷりはまってしまいました」と話している。帰国後、扇田さんは休みごとに「呂仁」に通い、時折電話をかけては質問を繰り返した。それほど巽さんとの出会いは衝撃だったのだ。「海外の蒸溜所巡りと巽さんとの出会いは、私の人生観を変えてしまったんです。巽さんと電話でしゃべる度にもっとつきつめたいと思うようになったんですよ。流石の巽さんも私の電話には辟易していたかもしれませんね」(笑)。

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 扇田さんは2003年に独立。中津の某ビル2階の奥まったスペースで7坪弱のバーをスタートさせた。2012年にラマダホテル北側の今の場所に移ったのだが、店が広くなっただけでコンセプトは昔と変わっていないという。あくまで街場の酒場的雰囲気を貫いている。店を作る際に長年やっていけそうなクラシカルな感じを持たせたいと思い、今の設えにした。唯一、木のカウンターにこだわり、アサメラ(南アフリカの木)でカウンターを作った。その上はすっきりさせず、かといってごちゃごちゃしない程度にモノが置かれている。クラシカルなバーのイメージをほどよく保たせたバーなのだ。座ると、意外にも幅と奥行きがあることがわかる。これを扇田さんは「お客様と丁度いい距離感」と表現する。休みの日は、このカウンターにオイルを塗り、ペーパーで磨きをかけるのだそう。その匂いを取るために翌日は休みにする。だから定休日はなく、あくまで不定休と表示している。

 独立して10年間は忙しくて海外にも行けなかったらしい。だからどこかで蒸溜所巡りに出かけたいとも思っているようだ。「その時は、ゆったりと旅がしたいですね。行く所々で酒屋やアンティークショップ、バーに立ち寄りながらね...」。以前「メーカーズマーク」の蒸溜所に行った時にヴィクトリア時代の美しい外観から女性的な印象を受けたそうだ。そして帰って来てから余計に愛着が出て、「メーカーズマーク」を薦めるようになったのだとか。次に海外へ行った時は、どんなイメージを持って帰ってくるのだろうか。まだ未計画な扇田さんの旅の後が今から楽しみに思えて仕方がない。

● WHITE RABBIT TAVERN(ホワイトラビット・タバーン)

お店情報

住所大阪市北区豊崎5-7-8 リップル豊崎ビル1-C

TEL06-6373-6150

営業時間18:00~翌2:00(但し、日祝日は~0:00)

定休日不定休

メニュー
  • メーカーズマーク800円
  • ボウモア12年1000円
  • マッカラン12年1000円
  • 山崎12年1100円
  • ジムビーム・ホワイトラベル700円
  • ジムビーム・ブラックラベル800円
  • ジントニック900円
  • モスコミュール900円
  • チャージ500円
※18:00~20:00まではハッピアワーを実施。この時間帯はノーチャージ。
ジントニック 600円、生ビール 500円、本日のウイスキー 600円で提供している。
↓メーカーズマークの製品情報はこちらから↓
https://bartendersclub.suntory.co.jp/brand/2013/04/index.html
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