曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~Bar AUGUSTA(バー・オーガスタ)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

苺と「ジムビーム」の幸せな関係

大阪府・梅田 Bar AUGUSTA(バー・オーガスタ)

大阪府・梅田 Bar AUGUSTA TARLOGIE(バー・オーガスタ・ターロギー)

満席になってから開くバー(?!)

 「今日は『BAR AUGUSTA(バー・オーガスタ)』で一杯飲って帰りたい」と思い、梅田に出てみた。関西バーテンダーの中でも重鎮ともいうべき品野清光さんが営むこのバーは、かっぱ横丁からロフトを横目に見て、道路を渡った鶴野町にある。まず「BAR AUGUSTA TARLOGIE(バー・オーガスタ・ターロギー)」の扉を開けてみる。熟成庫をも想像させるこのバーは、流石に盛業店だけあって客がひしめいている。どうやら満席のようだ。そんな時は、隣りの「オーガスタ」を覗いてみる。すると、空席あり!「では『オーガスタ』で一杯飲ろう」。それがこの店でのスタイルでもある。

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 こう書くと、大半の人は意味がわからないので、もう少し詳しく説明しておく必要があるだろう。<キタ(大阪・梅田)の鶴野町にある「オーガスタ」は、品野清光さんが1987年に開いた店である。今年の9月で26年目を迎えるオーセンティックバーだ。品野さんはこの近くにあった「東急ホテル」でかつて働いていた。20歳でホテルに入った時はフレンチレストランのサービススタッフだったらしい。そのレストランの隣りにバースペースがあり、いつのまにかバーの仕事も兼任するようになっていたそうだ。ホテルというのは、料理人でもない限りずっと同じ仕事を担当するわけではない。だからベルボーイになるか、フロント業務をするか、サービススタッフとして接客するのか、どの部署に回されるかわからない。「トレーも持ったことがなかった」と言うだけに品野さんもレストランに配属された時は、「接客の難しさを経験した」と話している。そのうち週の半分はバーで働き、あとの半分はフレンチレストランのサービスマンをするようになっていた。その理由は品野さんがバーテンダーの仕事をするようになってからボトルキープが増え、売上げが伸びたからである。しかし、会社の規定上、いくらバーの仕事が面白くてもシフトの都合から、週の半分以上はカウンターに立てなかったようだ。

 品野さんが「東急ホテル」で働いていた頃は、丁度「サントリージガーバー」がチェーン展開していた時代。品野さんもその話題の「ジガーバー」へ出かけ、一杯飲ったことが度々あったらしい。「某店は若い人がやっていて、2回目に行った時に私のことを覚えていてくれたんです。それで気をよくして通い始めました。通っているうちに同世代の人でもバーを切り盛りできているのだから自分にもできるのではないかと思うようになったんです」。そこで26歳の若さで独立をすることにした。多分、「東急ホテル」が茶屋町にあったからだろう、その近くの鶴野町で「オーガスタ」をオープンしている。「オーガスタ」はカウンター10席ほどの店。そこで品野さんはカクテルを作り、ウイスキーを提供しながらその名を高めていった。

 西暦2000年を迎えたある日、隣りの居酒屋が閉めることを聞く。そこでスペースの広い隣りに「オーガスタ」を移転しようと考えた。当初は「オーガスタ」を隣りに移し、それまでの店を手放そうと考えていたが、古くからの常連が残してほしいと懇願したので新しい店舗を「バー・オーガスタ・ターロギー」とし、それまでの店をそのまま残して2軒を有すスタイルで歩み出した。初めは両店とも同時に開けていたのだが、効率を考えると、何となく悪いようなので、17時からは「オーガスタ・ターロギー」を開け、そこが一杯になったら隣りの「オーガスタ」を開けるというシステムに変えている。だから私はまず「オーガスタ・ターロギー」を覗き、一杯と見るや隣りの「オーガスタ」に入ったわけである。

「イチゴビーム」なるオリジナルカクテル

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 今日は「オーガスタ」のカウンターに品野さんが立っていた。私は腰かけるとすぐに「ジムビームで一杯作ってください」と注文した。なぜ「ジムビーム」なのか?それは単純明快、CMでかのハリウッドスターが美味しそうに飲んでいたからだ。

 「ジムビーム」は200年ぐらい前にジェイコブ・ビーム氏が造ったバーボンである。ケンタッキーの石灰岩層で濾過された水と、彼の出身国でもあるドイツの蒸溜ノウハウで造られたもの。1795年に最初のウイスキー樽を発売し、以来、200年間世界で支持されるバーボンウイスキーを産み出し続けている。ちなみにビーム家からはこれまで30人以上のマスターディスティラーを輩出している。勿論、自社は当然だが、他社でも活躍してきた経験がある。現在はフレディック・ブッカー・ノウ氏がその重責を担っている。

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 さて、品野さんの方は、私の注文に対し、「ロックやハイボールでは面白くないので、それを使ったカクテルを作りましょうか?」と聞いてきた。何でもこの時期(私が行ったのは2月中旬)には「イチゴビーム」なるカクテルが提供できると言う。イチゴビームとは、光線銃のようで何となく面白かったので、迷わずそれを作ってもらうことにした。

 すると、品野さんは苺4個をシェイカーに入れて作り始めた。そしてそこに「ジムビーム・ブラックラベル」30mlを注ぎ、フレッシュレモンジュースを15ml加える。さらにガムシロップを10mlと氷5個をプラスし、ボストンシェイカーでシェイクをして作る。シェイカーの中でうまく混ざると、氷ごと大きめのグラスに注ぎ入れ、最後に苺を飾って提供してくれた。

早速、飲んでみると、思ったほど甘くなく、どちらかというと苺の酸味が目立っているように感じた。品野さんに感想を述べると、「男性だともう少し甘みを効かし、パンチがある方がいいのかもしれませんね」と言う。しかし、私には十分この味で美味しかった。苺の甘みもあり、酸味も感じられる。爽やかさが印象的で、甘いのが苦手という人にはむしろ向いているのかもしれない。「フルーツは自然のものなので、買ったものによって味は自ずと変わってきます。今日の『さちのか』は少し酸味が勝っているので、このようになりましたが、例えば『あまおう』を使えばもっと甘みが増しますよ」と話す。「苺と『ジムビーム』の組み合わせは珍しいですね」と言うと、「そうですね。あまりやっていないのかも...。実はバーボンが効いている方が苺の味がいかされるんです。45mlにしてもいいのでしょうが、それだと女性には強すぎると思ったので、あえてこのレシピにしたんです」と品野さんは教えてくれた。

 品野さんの「ジムビーム・ブラックラベル」評は、「酒質が柔らかい」ということ。ホワイトラベルは優しい味だが、ブラックラベルにはコクがあるという。他のバーボンと比べると、クセがないからカクテルを作る際に融通がきくようだ。実はこの店では、「ジムビーム」が新たになってから(今年の1月の入荷以来)一杯もハイボールを売っていないらしい。そのこころはと問うと「それでは芸がないから」と答える。以前から品野さんは「ハイボールでは多店と差別化するのに限界がある」と語っており、その点、カクテルだと「可能性は無限に広がる」ようだ。5月になると、ミントジュレップもお目見得するらしい。だから「心待ちにして欲しい」と品野さんは言う。

 今ではどこでもミントジュレップをやり始めているが、昔はミントすらあまり巷には出回っていなかった。そこで品野さんは「呂仁」(守口にあるバーボンで有名なバー)のオーナー・巽誠一郎宅の庭からミントをもらってきて自宅のプランターに植え替えて育てたそうだ。それが今でも自生し、5月になれば使えるようになる。但し、自ら育てたミントを用いたいので5~7月の間だけしかミントジュレップは出していないとのことだ。だから「その時期は『ジムビーム』でやりたい」と話している。「45~60ml入れて作るのだ」とその設計図はすでに頭の中で完成している。

 一般的な店がリキュールベースでカクテルを作っていた時代に品野さんはあの手この手を使って新しい試みを行っている。今となっては当たり前になっているフレッシュフルーツのカクテルも前時代から行っており、そこに凄いところがあると私は感心してしまう。「カクテルに何でもぶち込む人がいますが、個人的な感想として『そこまで、しないといけないの?』って思ってしまうんです。ハーブやスパイスを入れるのは日本人にはまだなじめないのでは...。それにカクテル自体を潰してしまう恐れもありますしね」。

逆に今は原点回帰しているのだと話している。「一巡してもとに戻ったかもしれません。『サイドカー』や『マルガリータ』などのスタンダードを美味しいレシピで出す方が今は受けると思いますよ」。そういえば、料理の世界でも"創作料理"が一世風靡した時代があった。それが今はどうなっているかといえば、死語に近い状態までなっている。料理もスタンダードを美味しく提供する―、そんな店が脚光を浴びているのだ。

 

ところで「オーガスタ」には、「サラブレッド」なるカクテルがある。簡単に述べると、バーボン2、コアントロー1、レモンジュース1の割り合いで作ったものだ。品野さんの話では「サイドカー」のバーボンバージョンらしい。ケンタッキーダービーの地にちなんであえて「サラブレッド」と命名したそうだ。今宵の雰囲気では、明日は競馬日和。願かけるつもりで、二杯目はそれにしようか。そんなことを思いつつ「イチゴビーム」を楽しんでいた。あっ、そういえば、「イチゴビーム」はビーム7というシリーズ(「ジムビーム」ベースのカクテル)のひとつ。他にグレープフルーツビーム、金柑ビーム、みかんビーム、コーヒービーム、トマトビーム、トニックビームの7つがあるらしい。せっかくだからその中のどれかを作ってもらおうか...。そんなことを考えるのもカクテルの楽しみである。まさにカクテルには無限大の面白さが隠れている。

 
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● BAR AUGUSTA(バー・オーガスタ)、BAR AUGUSTA TARLOGIE(バー・オーガスタ・ターロギー)

お店情報

住所大阪市北区鶴野町2-3 アラカワビル1F (店内は禁煙)

TEL06-6376-3455

営業時間17:00~翌0時

定休日なし

メニュー
                        
  • ジムビーム・ブラックラベル1200円
  •                     
  • 山崎12年1200円
  •                     
  • 山崎18年2500円
  •                     
  • 白州12年1200円
  •                     
  • イチゴビーム1500円
                        
  • サラブレッド1500円
  •                     
  • マティーニ1500円
  •                     
  • サイドカー1800円
  •                     
  • マンハッタン1800円
  •                     
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