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曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~エリクシル・ド・ロングヴィー~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

何でもステアで作ってしまいそうなカクテルの達人

神戸・三宮 エリクシル・ド・ロングヴィー

徳島から神戸へ逆輸入(!?)されたバーテンダー

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今日は三宮で飲りたい、そんな気分だった。神戸で生まれ育った私は、やはり三宮や元町が落ち着く場所。昔からのフィールドでもあるために時間を気にせずゆっくり楽しむことができるのだ。阪急三宮駅以北、北野坂と東門筋に挟まれたエリアに行ってみたいバーがあったので、そこへ足を向けることにした。この店は店名を「エリクシル・ド・ロングヴィー」といい、NBA(日本バーテンダー協会)神戸支部の要職を務める宮本賢治さんが営んでいる。宮本さんは現在、サンテレビ「カツヤマサヒコSHOW」にも出演しており、神戸ではなかなか名の通ったバーテンダーだ。

神戸中央卸売市場近くで幼少期を過ごし、その後、加古川で育ったという宮本さんは、神戸ではなく、意外にも徳島でバーテンダーの仕事をスタートさせている。初めは伊丹空港で航空貨物に関する仕事をしていたそうだが、日に日に自分がやっていることに対して疑問が湧き、手に職をつけたいと思うようになっていった。たまたま親友が徳島の「BAR-TOYOKAWA」なるバーの常連だったのでその店主を紹介してもらうことになった。「BAR-TOYOKAWA」を営むバーテンダーの豊川さんは、宮本さんが神戸出身ということもあって神戸のバーを紹介するつもりだったらしい。それが「BAR-TOYOKAWA」に行って豊川さんと話してみると、「ここで働きたい」と思い、帰りぎわには「雇ってもらえませんか?」と切り出している。それを聞いた豊川さんは驚いて「都会から田舎に何しに来るの?」と言ったそうだ。豊川さんの言葉に表れているように四国から神戸に出る人はいても、なかなかその逆はいない。ましてや神戸は、洋酒文化発祥の街でもあり、バーのレベルも高い。いくら技術を有している豊川さんでもその逆はなかろうと思ったようである。

その後、'94年8月から宮本さんは「BAR-TOYOKAWA」で働き始めたのだが、翌年1月17日には阪神淡路大震災が神戸を襲っている。もし神戸で働いていたなら、店が潰れ、路頭に迷っていたであろうし、三宮周辺に住んでいたならば命の保証もなかったかもしれないのだ。

宮本さんは「四国で働いてよかった」と話している。それは何も地震の恐怖からではなく、地域的な難しさを体験したからだ。「徳島では都会のように専門店は通用しにくい。何でもできなければ、やっていけない土地なんです。それに当初はやはり余所者扱いでした。仲間と認識してくれるまでには時間がかかったんですよ。ある日、暇な日があり、何気なく『街が静かですね』と言ったんです。すると地元の人から『あなたは徳島をバカにしているのか』って怒られたんですよ。ショックでしたね、私はいつまでたっても余所者だって思ったくらいです」。それが徳島のバーで一所懸命働き、仲間だと認識され始めると、今度は普通以上に大事にしてくれる。そんなギャップと温かさを経験したのがよかったのだと宮本さんは話していた。

'98年に徳島から帰って来た宮本さんは、翌年、三宮で「ハーネンシュライ」というバーを開き、独立している。同店は宮本さんが手作りで造ったバー。お金をかけずに開きたかったそうで、暇を見つけては本屋で建築や塗装の本を立ち読みしながら一カ月でオープンにこぎつけている。そして12年前には、この「エリクシル・ド・ロングヴィー」を開いた。前の店がハイカウンターでカジュアルだったので、二軒目はローカウンターにし、ゆったり飲んでもらえるようにしたそうだ。ちなみに「ハーネンシュライン」は、今はなく、弟子にその店を譲っている。宮本さんの弟子にあたる難波さんが「ローゲンジッツ」と名を変えてやっている。

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ところで宮本さんは、何でもステアで作ることで知られている。徳島時代にさんざんシェイカーを振り、その技を極めた後はステアを練習しようと考え、色んなカクテルをそれで作るようになった。「サイドカー」も「グラスホッパー」もステアで作るそうで、「時には水割りもステアで」と笑いながら話してくれた。この店へ同業者が来て必ず注文するものがある。それは「マンハッタン」。ライウイスキーをベースにしたカクテルで、第19代米大統領選の折りに、チャーチルの母親がニューヨークのマンハッタンクラブでパーティーを開いた。その時にウイスキーとスイートベルモットの組み合わせを提案。参会者から好評を得、クラブの名にちなんで名づけられたとの話が伝わっている。諸説あるが、どうやらこれが有力視されているようだ。バーで働く人が後輩に「宮本さんのマンハッタンを飲んで来い」と言うらしく、やたら同業者はそれを頼むそうだ。宮本さんはそれに対し、「齢40を過ぎてやっとそう言われるようになったことは感慨深いものがある」と言い、「これまで一所懸命やってきた甲斐があった」と振り返る。三宮の「エリクシル・ド・ロングヴィー」とは、そんな宮本さんが営むバーなのだ。

フローズンマルガリータをステアで作る

私は他のバーテンダーが注文するように「マンハッタン」を飲んでいるのかといえば、さにあらず。夏向きのカクテル「フローズンマルガリータ」を味わっている。この店ではフローズンというと、圧倒的に「フローズンダイキリ」が出るらしいが、それは一般人が「フローズンマルガリータ」の存在を知らないからだろう。宮本さんによると、「エリクシル・ド・ロングヴィー」は、カクテルがよく出る店だそうで、この暑い季節にはフローズンも人気だとか。このひんやりした一杯を作るにあたって宮本さんは「サウザ」をベースにしている。いつもならその作り方(分量)を詳しく明記するのだが、先程も書いたように宮本さんは、何でもステアで作ってしまう。この「フローズンマルガリータ」も右に倣えで、全て適量としか書くことができない。だが、それだけでは申し訳ないので、私が見た作り方を記しておこう。

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まずグラスに塩をつけ、スノースタイルにする。次にブレンダーにライム1かけ(皮は取っている)を入れ、その上からライムジュース、シロップ、ホワイトキュラソー、「サウザ(シルバー)」を注ぐ。ここで忘れてはならないのが生クリームを隠し味として入れること。これを加えることで、なめらかになるのだと話していた。そして砕いた氷を加えてミキサーをまわす。ある程度まわしたらスノースタイルのグラスに掻き入れて最後にライムの皮を搾って添える。ライムの効果で、その香りが立ち、夏の爽やかな一杯が出来上がるのだ。  生クリームを入れたにも関わらず、その味はあまりしない。ただ、絹のようなきめ細やかさが出ており、舌ざわりがよくなっている。これが生クリームの効果なのだろう。「けっこうアルコール量が入っているんですよ。本当ならダブルでテキーラを飲むくらいに。薄いからじっくり吸収されるために量が入っていてもそんなに酔わないんです」。

130年に亘って高品質なテキーラを造るサウザ社の「サウザ」には、シルバーとゴールドがある。宮本さんはシルバーを指してカクテルを作る際には用いやすい逸品だと言い、ソーダやトニックウォーターで割るにはシルバーの方がいいとも言う。一方、ゴールドはロックならむしろこちらがオススメだと話している。さらに話を深めれば、グレープフルーツと混ぜた時はゴールドの香りの立ち方が違うとも話している。「サウザは、クリアなテキーラです。重たくないからカクテルには多用しています。他のテキーラは香りが強く、どっしりしたものが多いんですが、これは軽やかですね。特にシルバーは使いやすいんです。ゴールドはマイルドな味。樽で寝かしているものを混ぜているから、そうなるんでしょうね」と宮本さんは評している。流石、カクテルで評判を取る店だと、私はその違いをしっかり噛みしめた。

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宮本さんは、昨今の傾向から軽やかなものがウケると指摘する。特にヨーロッパはライト志向で、重たいものを敬遠しがちだとも。この背景からも「サウザ」が評価されるのがわかる。重たくはなく、軽やかであれば、他のものと合わした時に共存共栄しあえる関係が生まれるのではないだろうか。

ある常連客の連れがウイスキーを注文した時に、「せっかくこの店へ来たのにカクテルを飲まないの?」と常連が言った。それくらい「エリクシル・ド・ロングヴィー」のカクテルは評価されている。「ウイスキーのストレートやロックが出ると楽なのに...」と言いつつも宮本さんはまんざらではない表情を示している。やはり彼は職人なんだと思った。古くから洋酒文化が根づいた神戸には、カクテルを嗜好する人が多いと聞く。なのでレベルが高くないと、この街では通用しないのだろう。三宮や北野町、元町界隈はトップクラスのバーが密集していることでも有名。この店を出した頃は、辺りには料理屋や居酒屋ばかりがあるだけでバーがほとんどなかったんですが、この12年でどっと増えましたよ。神戸はバーが多いことでも知られている街ですが、特徴をつけていかないと潰れてしまいます」と言う。シェイクの技術もさることながら何でもステアで作ってしまう、そんな店もそうそうはない。十分に個性的なバーである。

エリクシル・ド・ロングヴィー

お店情報

住所神戸市中央区中山手通1-3-5

TEL078-392-7210

営業時間18:00~翌2:00

定休日月曜日

メニュー
  • フローズンマルガリータ1300円
  • ジントニック800円
  • マティーニ1300円
  • アレキサンダー1300円
  • グラスホッパー1000円
  • メーカーズマーク1000円
  • ボウモア12年1000円
  • 山崎12年1400円
  • 白州12年1400円
  • チャージ500円
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