曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~心斎橋バー・ひとつき~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

バーボンが苦手な女性でもコレならいける!

大阪・心斎橋 心斎橋バー・ひとつき

店内に庭を作りたかった?!

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‟一坏"と書いて‟ひとつき"と読む。言葉としては、一杯と同じ意味らしい。今春、心斎橋にこの言葉を店名にしたバーがオープンした。「心斎橋バー・ひとつき」は、大丸を東へ折れ、清水通を笠谷町筋の方へ進んだ丸清ビルの5階に位置している。同ビルの6階にある和食ダイニング「わのつぎ」が、姉妹店として階下に造ったバーである。店名の「ひとつき」は、万葉集の中にある大伴旅人の歌から取っている。「験(しるし)なき物を思はずは一坏(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあるらし」という歌を意訳すると、悩んでもしょうがないことを悩むくらいなら酒を飲む方がましだということになる。一杯の濁れる酒とは、濁った酒を一杯の意味で、この時代にはまだ清酒はなかったので、酒といえば濁り酒を指している。「つまり普段の仕事を忘れてここで楽しい酒を飲んでもらいたいとつけたんですよ」とバーテンダーの奥川貴史さんは、わかりやすく教えてくれた。

奥川さんは、齢(よわい)37のバーテンダーである。30代半ばを過ぎると、バーテンダーもそろそろ一本立ちし始める頃。これまでお兄さん(奥川悟史さん)が経営する「bar BAROQUE shinsaibashi(バー・バロック・シンサイバシ)」や他の店で働いていたそうだが、「ひとつき」がオープンするにあたり、「わのつぎ」の店主から声がかかって店を任されている。そもそも奥川さんがこの道へ入ったのは、先輩に頼まれて立ち呑み屋を手伝ったのがきっかけ。ある事情からその店で働いていたスタッフ全員が本町のレストランバーへ移った。その時に働きながら「バーテンダーの仕事って面白いな」と思ったようである。レストランバーでの仕事もそうだろうが、お兄さんの悟史さんがバーテンダーだったことも少なからず影響したのだろう。その後、ミナミのバーへ移り、お兄さんが「bar BAROQUE shinsaibashi(バー・バロック・シンサイバシ)」を立ち上げてからは、その店を手伝うようになっている。話を聞くと、一時は三軒もかけ持ちしていたらしい。「曽我さんとは、『オールドコース』の時に会っているんですよ」と言う。ちょうど私がこのコーナーで「オールドコース」を書く際に、その店を手伝いに来ており、取材に立ち会ったのだとか。

そんな縁のある奥川さんのバーを取り上げるとは、何となく感慨深いものがある。「噂のバーと、気になる一杯」で色んな店を巡っていると、その時働いていた人が独立したり、新店を任されたりしているケースが時々ある。こちらは知らなくても向こうは知っている―、何となく有名人ぽくなったようで(これはこちらの勝手な解釈なので、別に自惚れてはいないことをご理解下さい)、誇らしいものがあるのだ。今回、なぜ私が「ひとつき」に来たかというと、ある情報筋から心斎橋に新しいバーができているとの知らせがあったからで、興味本位で覗いてみたくなったのだ。

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「ひとつき」は、ビルの5階にあるにも関わらず、店内は庭のイメージを持たせている。私が行った時は、カウンターとボックス席が少しあるだけの店だったが、和食店がやっているからか、うまく和のイメージを醸し出しており、店内には季節の花や木を設えていた。奥川さんが「オーナーが店内に庭を作りたかったんでしょ」と言うだけあって季節によって木を替えながら庭のように見立て、隠れ家的バーを演出している。ちなみに今春のオープン時は、桜の木があったそうで、それからヤシオツツジ→ムシカリ→ヤシオツツジと変化している。2回目と今回のヤシオツツジでは品種が異なるそう。今回のものは白い花が咲いている。「ひとつき」は新店なので、まだまだ進化中とのこと。今後は個室も造るとの話であった。

和のイメージは、設えだけではない。6階に和食店「わのつぎ」があるために、料理が出前できる。「出し巻き玉子」や「おもちとチーズの磯辺焼き」などをアテに一杯飲ることができるというわけだ。

リキュールを加えながらバーボンを飲みやすく

さて、私の方はというと、この新しいバーでミントジュレップを飲んでいる。奥川さん曰く「一般的なミントジュレップと違った作り方をする」ようで、「名前をメーカーズマークのミントジュレップひとつきバージョンとでもしておいてください」と言っていた。では、その作り方を紹介することにしたい。まずミキシンググラスにミントの葉を30枚ぐらい入れ、パウダーシュガーを加えたら炭酸を少々注いでシュガーを溶かす。次にクラッシュアイスをグラスの2/3ぐらいまで入れてバースプーンの背(平になっている部分)でミントを潰していき、香りを立たせる。それをグラスへ移したら足りない分のクラッシュアイスを加えて、いったん冷凍庫で冷やすのだ。

シェイカーに「メーカーズマーク」30mlを注ぎ、次に「サザンカンフォート」(ミックスリキュール)を15ml加えたらミントの葉を一枚と氷を入れてシェイクする。先ほど冷凍庫へ入れていたものを取り出して、そこにシェイクしたものを注いで混ぜる。最後にメロンリキュールの「MIDORI」1ティースプーンを加えてミントを飾れば出来上がる。

奥川さんは、従来からあるミントジュレップを自分流にアレンジしたのだと説明した。ミックスリキュールを少量入れてシェイクすることで飲みやすくなり、女性にもウケるのだとか。「MIDORI」を加えるのは香りをよくするため。ミントに頼りがちなカクテルが、こうすることでフルーティになり、飲みやすくなるそうだ。

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奥川さんが「女性にウケる」というだけあって導入口はやはり入りやすく、しかも味的にも飲みやすい。ベースとなるウイスキーに「メーカーズマーク」を用いているのもその要因であろう。「このウイスキーは、クセがないのでカクテルに使いやすいんですよ。他のバーボンだと、どうしてもライ麦のスパイシー感があるためにカクテルの味を設計する際に邪魔されてしまいます。『メーカーズマーク』は、冬小麦なのでバーボン特有のクセがなく、マイルド感があるんです」と話している。彼が言うように「メーカーズマーク」をストレートで飲ったとて、初めはグッと強いものが来るが、どちらかというと柔らかい味のために口内にすっと入っていく。だから奥川さんは、バーボン初心者に「メーカーズマーク」を勧めるのだと言う。

奥川さんは「ハイボールブームでウイスキーを好む若い人が増えた」と前置きした上で、「でも女性に限ってはまだバーボンへとは進まないのが現状です」と語っている。少しでもバーボンの旨さを知ってもらいたくて、リキュールをプラスしたりして飲みやすい形にし、提供しているようだ。「男の人は『メーカーズマーク』をロックやハイボールで注文しますが、悲しいかな女性はそこまでバーボンウイスキーを好んで注文することはないんですよ。話を聞くと、クセがあるから苦手だと言うんですが、『メーカーズマーク』は、バーボン特有のクセもないから飲みやすいはずなんです。でも先入観があるんでしょうね」。奥川さんは、例えば椎茸嫌いな方には、素材感を出した料理を提供するより、あれこれアレンジしながら調理していったものを食べていただいた方がいいと話す。それと同じでバーボン敬遠派もフルーツの甘みやリキュールの香り・甘みを入れることにより飲みやすくして先入観をなくす方がいいと考える。だから今回のミントジュレップはそんな女性に向いているのだと話している。「要は酒の味にどう慣れてもらうか。工夫を施して一口さえ飲んでもらえれば、大概は入って行けるんです」。

そういえば、コーラ好きだった私は、酒の味をコークハイやキューバリブレから覚えた。若かった頃の話で、今ではウイスキーが好きでロックやストレートで注文することも多い。初めは難しいことは言わず、その人が受け入れやすいスタイルで入るべきなのだと奥川さんの話を聞いてしみじみ思った。ところで一杯目にミントジュレップを飲んだ後は、「メーカーズマーク」をロックで注文しようか―、それともハイボールにしようか。奥川さんの話では「わのつぎ」からの出前は、22時半までらしい。少し小腹が空いたこともあり、アテを少しだけもらうことにしよう。それならハイボールの方がいい。その旨を奥川さんに伝えることにした。

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心斎橋バー・ひとつき

お店情報

住所大阪市中央区東心斎橋1-17-15 丸清ビル5F

TEL06-6245-5665

営業時間17:00~翌3:00(日祝日は~24:00)

定休日無休

メニュー
  • メーカーズマークのミントジュレップひとつきバージョン1300円
  • メーカーズマーク900円
  • 山崎12年1200円
  • 白州12年1200円
  • バランタイン17年1300円
  • ジントニック800円
  • モヒート1300円
  • 季節のフルーツカクテル1200円~
(価格は全て税別)
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