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曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~BAR中原~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

師匠と弟子の見事なカクテル共演

大阪・堺 BAR中原

通り雨を想わす淡いブルーのカクテル

"ものの始まりは何でも堺"。かつて自由貿易都市として栄えた堺では、鉄砲やタバコ包丁などを世に出し、日本の文化を牽引してきた歴史がある。殊に中世では堺の商人や職人が活躍し、色々なものを広めた。だから自ずとそのような言葉が生まれたのだろう。文化度の高い街ゆえに必然的にバー文化も根づいており、技術力の高いバーテンダーや完成度の高いオーセンティックBARも多い。今回紹介する「BAR中原」もその一つ。店主の中原淳史さんは、NBA関西統括本部の要職に在り、南大阪支部の副支部長をも務める人物。色々なカクテルコンペでの受賞歴もあるので、堺ではカクテル名人として聞こえるほど。私のこのブログでも2010年のバックナンバーを紐解けば登場している。そんな「BAR中原」へ久しぶりに出かけたのである。

今回行くきっかけになったのは、堺で包丁づくりを行う老舗「和泉利器」の8代目・信田尚男さんが本並雪美さんの噂を流してきたことによる。本並さんは「assemble on eight(アッセンブル・オン・エイト)」(かつて中原さんが働いていたバー)時代から中原さんに師事してきた女性バーテンダーで、カクテルコンペでも師匠譲りの腕が評価され上位に食い込んできた。そんな彼女が昨年、NBA主催の「全国エリートバーテンダーカクテルコンペティション」のグランプリに輝いた。堺を愛する信田さんは、それを自分のことのように喜んで伝えてきたのだ。そこで受賞作を飲んでおこうと考えて南海堺駅に降り立ったのである。

「BAR中原」は、南海堺駅から5分程歩いた戎島町にある。以前、私は「レベルが高く、こんな雰囲気の店が北新地にあってもおかしくはない」と書いたが、6年たっても大人の隠れ家的ムードは健在で、洗練された雰囲気を醸し出していた。そこで働く本並さんはまだ20代の若きバーテンダーで、若手が競う同大会で2位を続けていた。出場できる最後の年齢を迎えた2015年に「アヴェルス」で見事グランプリを獲得したという。

「アヴェルス」とは仏語でaverseと書き、通り雨を意味する。本並さんは、まずネーミングから入り、それにマッチするように素材を選んだ。淡いブルーを印象づけるためにグレープフルーツのリキュール(15ml)を用い、それにドライジン(20ml)とレモングラスリキュール(10ml)、モヒートミントシロップ(10ml)、フレッシュライムジュース(5ml)を合わせてシェイクして作る。審査員から「名前に味とデコレーションが合っている」と評価され、ベストネーミング賞も同時受賞している。

レシピを見てわかる通り、度数の低いものではない。けれど飲み口が甘いので、きつさを感じずに飲れる。一見、男性には甘いかとも思えるが、優しい調和で爽やかなために後口もいい。ミントの味も程良く出ているためにそこまで甘さは感じないのだ。本並さんも「20度もあって女性には強いと思ったんですが、そうでもなく、男女ともに好評です」と話している。流石グランプリ作品だと手放しで評価できる一杯なのだ。

「メーカーズマーク」にアップルティーを合わせてみる

さて、噂の「アヴェルス」を楽しんだ私は、せっかくだから中原さんに即興でカクテルを考えてもらうことにした。お題は「メーカーズマークを使って」。同酒は、冬小麦由来のスイート&スムーズな味わいが特徴。バーボンのわりにクセがなく、カクテルにも使いやすい。中原さんも「飲みやすいバーボンウイスキーです。主張はせずとも味はしっかりしています。私はハイボールをよく薦めるんですよ」と評している。このウイスキーを使って即興でどんなカクテルが出来上がるのだろうと興味深げに彼の所作を見つめた。

すると、中原さんは、容器にティーバッグのアップルティーの葉を放り込み、「メーカーズマーク」20mlと「プルシア」20ml、「キミア」20ml、グレナデンシロップ(1ティースプーン)を加えて作り出した。以上の素材を合わせたら、混ぜて紅茶の香りを出す。そしてそれを冷してあったミキシンググラスに移し、ステアして冷たくする。ある程度温度が下がったらカクテルグラスに注いでマラスキーノチェリーを飾れば完成する。

口にすると、紅茶の香りがし、特有の苦みが舌に伝わる。きちんと煮出したわけではなく、ティーバッグを入れてウイスキーやリキュールを加えただけなのに紅茶の味がうまく出ている。アップルティーのリンゴと、「プルシア」の梅、「キミア」の金柑がうまくマッチし、甘味・酸味のバランスがよくとれていると感心することしきり。「ティーバッグでも香りが負けないように出ているでしょ。本来、リンゴの香りはウイスキーに合いやすいんです。紅茶の個性が出てこないケースもあるんですが、これはうまく出ていますよね」と中原さんは言っていた。確かにアップルティーの雰囲気は舌に伝わってくる。それが紅茶特有の苦みであったり、アップルティーの香りであったりする。ここにクセがない「メーカーズマーク」がうまく溶け込んでいる。リンゴの香りをうまく出しながらその個性を引き立てる役割を果たしたのだと思われる。「仮にスコッチで作るとしたらアップルティーでなくてもいいように思えます。リンゴの香りは『メーカーズマーク』だから出しやすかったんですよ」。紅茶とウイスキー、リキュールをいっしょにステアすることでこの味が出ているのだと思われる。ティーバッグを少し浸しておき、香りを出すところが憎い技なのだ。ちなみにこの即興カクテルは「アメリカンルビー」という名に決まった。このネーミングも即興である。

「BAR中原」に来たらもう一つ薦めておきたいものがある。それはカクテルではなく、お酒のアテ。「出し巻き卵のピタサンド」は、トルティーヤ生地で作ったピタサンドの中にだし巻き玉子を詰め込んだもの。スライストマトを、ごま油で焼いただし巻き玉子といっしょに春巻きのように巻き、オーブンで焼いて作っている。味付けはマヨネーズと黒胡椒で。一見不思議な食べ物だが、口にするとまさにサンドイッチの変形版。聞けば、中原さんがパンが切れている時に、どうしてもサンドイッチが食べたくてピザに使っているトルティーヤを用いたのが始まり。それをあえて厚焼き玉子ではなく、だし巻きで作った。「トルティーヤだからお腹にどっしりこないでしょう。だから酒のアテにいいんですよ。だし巻きは、白だしを入れて作っているんです」と中原さん。パンのない折りに無理やり作ったにしては出来すぎの感がある。

同店には、この「だし巻き卵のピタサンド」の他に「特製カレーライス」や「サラミとトマトのピザ」「トマトクリームパスタ」などフード類が何品かある。たまに食事をせずに飲みに来る方がいて、彼らのお腹を満たせるようにとラインナップしたのだそう。そこが北新地のバーと少し違う環境か、一軒で食事もバーも楽しめるようになっているのだ。そんな堺らしい個性を感じつつ、今日は面白いカクテルを二杯も味わった。堺が活動範囲ならきっと通っていただろうと思われる。その点、我が友人で堺の老舗包丁メーカー8代目・信田さんが羨ましいと思った。

BAR中原

お店情報

住所大阪府堺市堺区戎島町2丁30 ターミナルマンション1F

TEL072-282-7766

営業時間19:00~翌2:00

定休日月曜日

メニュー
  • アメリカンルビー1100円
  • アヴェルス1300円
  • ジントニック900円
  • カンパリソーダ900円
  • マティーニ900円
  • モヒート1200円
  • メーカーズマーク1000円
  • 山崎12年1500円
  • 山崎18年3000円
  • 白州12年1500円
  • ラフロイグ10年1100円
  • ボウモア12年1000円
  • だし巻き卵のピタサンド600円
  • サラミとトマトのピザ1000円
  • トマトクリームパスタ1300円
  • 特製カレーライス900円
※価格は全て税込み
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