2016年11月10日
曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」
酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。
神戸・元町 VIEW BAR(ビュー・バー)
久しぶりに「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」のバーを覗いた。同ホテルは私にとってお気に入りの一つ。神戸港や夜景が眺められるばかりか、都会にありながらリゾート気分に浸れる。だから時折ふらっと訪れて一泊したりする。そんな私が少しばかり足が遠のいていた。理由は忙しさ故。でも時には息抜きも必要で、一泊は無理でもバーなら時間が取れるだろうと来た次第である。
「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」は、中突堤の先端にあって俯瞰で見れば、港の中央辺りに位置している。だからどこよりも夜景がいい。西の窓からはハーバーランドが、北はポートタワーを含んだ神戸の街が見渡せ、きらびやかな街の灯がロマンチックな気分にさせてくれる。まさに港町・神戸にふさわしいバーなのだ。
今回私が覗いた目的の一つにバーが変わったことが挙げられる。かつてホテルの最上階には「港's」というバーがあった。落ち着いたラウンジ風の造りだったが、それがスタイリッシュにバーらしく変身を遂げ、名称も「VIEW BAR(ビュー・バー)」となったのである。入ると、長いカウンターがあり、パノラマビューが目に入って来る。西側と北側はガラス貼りで美しい夜景を借景にして酒が楽しめるのだ。夜景と対峙するかのようにボックス席が置かれ、オリジナルで造った椅子は座り心地がいい。三宮のライブハウス「チキンジョージ」がプロデュースするミュージシャンの生演奏などもあるので、雰囲気の良さに拍車をかけている。おまけに山側(北)のルーフトップバルコニーにもボックス席があり、オープンエアで酒と夜景を堪能できる。
今日は相も変わらず早がけから酒を飲んでいる。「港's」の時より長く設えたカウンター席からも勿論、港が見える。夕方5時に来るメリットは、きれいな夕景が眺められることと、まだ混んでいないのでじっくりバーテンダーと語れること。バーテンダーのこだわりや作り方など色々な意味で情報を持って帰ることができる。これも物書きならではのバーの楽しみ方かもしれない。
早い時間に私が話し込んでいるのは、「VIEW BAR(ビュー・バー)」のバーテンダー・田淵厚さん。ここには彼や佐保信介さんと名うてのバーテンダーがいる。田淵さんは、香川の出身で、「ポートピアホテル」など色々なバーで働いていた経験を持つスタイリッシュなバーテンダーだ。田淵さんがこのホテルに来たのは2年程前。12年いたホテルを辞めてこの借景の美しいバーへとステージを移した。田淵さんは「VIEW BAR(ビュー・バー)」を「挑戦できる空間」と考えている。ホテル自体がイベントを多く実施し、フェアも幅広いので色々な意味でのやりがいがあるのだろう。さらに8月26日からは新たに生まれ変わっており、これほど風景をアテに一杯飲れる場所は神戸広しといえどそうない。
「VIEW BAR(ビュー・バー)」になってカクテルも充実した。このブログでも以前紹介した「BAR Le Salon(バー・ル・サロン)」の吉成幸男さんが力を貸しており、彼の考案したフレッシュフルーツを使ったカクテルの他、田淵さんらのオリジナルがメニューとして加わっている。中でも「モヒート」は、一般的なそれと趣が違ったもの。ボストンシェイカーのティンのみを使い、沢山のミントの葉とラム、フレッシュライムジュース、砂糖を入れて作る。氷もクラッシュではなくシェイブアイスを。ペストルでミントの葉を粉砕し、氷にその香りを移すようにするのがポイントだ。そして微量の炭酸でミント香を引き上げたら、グラスに注ぐ。見た目はまるでフローズンのよう。緑が美しく、液体自体がミントの香りを含んでいる。田淵さんによると、「筋肉痛になるほど潰す」らしく、氷が潰れて緑の色にうまく染まるのだと話していた。
私は、この変わった「モヒート」を飲みながら「やはりカクテルがよく出るの?」と聞いてみた。すると「改装前よりかなり増えましたね」との返答。「以前よりメニューにフレッシュフルーツカクテルが沢山載っているからか、それを注文する人が多いですね」と付け加えた。フレッシュフルーツカクテルは何種類かのスタンダードのものがあり、あとは旬の果物で作っていく。「これからは洋梨や金柑、みかん、苺などがいいですよ」と話してくれた。
このように書くと、この後はフレッシュフルーツカクテルが出てくると思うだろうが、さにあらず。「VIEW BAR(ビュー・バー)」になってウイスキーにも注力しているようで、田淵さんはスタンダードな「バランタイン17年」を薦めてくれた。同酒は40種以上の原酒をバランスよくブレンドしたスコッチウイスキー。爽やかなスモーキーさとほんの少しのフルーツやフラワーの香りがし、ふくよかな甘みを有する、ウイスキーのベストセラーだ。田淵さんはこの酒を「強すぎず、かといってパワーがないわけではない。飲みやすいウイスキーです」と評している。初めは軽いように思えても徐々に深みが加わり、爽やかさから中盤は複雑味が出てくるという特徴があると話している。
田淵さんは、この「バランタイン17年」をハーフソーダで楽しむのがいいと薦めてくれた。その言葉に従って注文すると、幾面もにカットした氷を1つ、グラスに入れて作り始めた。彼の話では包丁で何面も氷をカットしてダイヤモンドをイメージさせたそうだ。氷はあらかじめ削ってあるのを使うのではなく、その場でカットして作る。グラスに入ったダイヤモンドカットの氷はキラリと輝き、美しい光を放っている。そこに「バランタイン17年」を30ml注ぎ、軽くステア。そして炭酸を同量(30ml)加えるのだ。仕上げはレモンピールで_。刺す程度にステアしたら「バランタイン17年」のハーフソーダが出来上がる。
「ハイボールもいいですが、この方がウイスキーの味がうまく残って香りも引き立つんですよ。ウイスキーの苦手な人でもレモンピールをかけることで飲みやすくなりますからね」。ホテルのバーは通ばかりとは限らず、初心者もやって来る。どんな嗜好かわからないので、まずは好みを聞き、顧客の舌に合うように仕上げねばならない。そんな時、「バランタイン17年」は役に立つ。クセがなく、スタンダードな酒なのでどんな人にでも受け入れやすいからだ。「ハイボールブーム以降、ウイスキーを飲む人が増えましたね。ここでも色んなものがバランスよく出せるようになりました。だから『VIEW BAR(ビュー・バー)』になってから選ぶ幅を広くできるように品揃えしたんですよ」と話してくれた。
「VIEW BAR(ビュー・バー)」には、三種の「バランタイン」がある。田淵さんによると、17年はあっさりして飲みやすく、21年は深みがあって延びがいいのが特徴。そして30年は初めから甘さを感じ、複雑さも有しているとの印象のようだ。田淵さんの薦めた飲み方は、このウイスキーに合っているようで、ハイボールほど薄くなく、ロックほど濃くはない。日本人は強い酒が苦手だといわれ、ストレートを欲しない人がいるのだが、この飲み方だと十分ウイスキーの味が実感できていいのだ。
最後にこのバーのもう一つの特色を書いておかねばならない。バーというと、がっつりしたフードは期待薄の感はあるが、「VIEW BAR(ビュー・バー)」はフード面の充実も図っており、しっかり食事をして飲むことも可能なのだ。バーの隣りが「ステーキハウス オリエンタル」なのでそこのシェフが作ったメニューを提供してくれる。この日も鍬先章太 料理長が、私が来ているというのでわざわざ顔を出してくれた。彼の話によると、下は800円から、上はクリスタルキャビアの29700円までとメニュー幅は広いそうだ。話のネタにと「ブラックアンガス牛のグリヤード」と「神戸ビーフパテ『"VIEW"バーガー』」を注文した。前者は市場に出る量が少ないといわれるブラックアンガス牛を焼き上げたもの。網目格子状に焼き、さらにオーブンでじっくり熱を入れる。鍬先シェフによれば焼き加減まで聞くとかで、まさにステーキハウスさながら。これがバーめしなのだから恐れ入る。一方、後者は神戸ビーフを使ったもの。パテは100%それで、空気を含ませず、練りもせず、ふんわりさせて仕上げている。マスタードと蜂蜜入りバターが塗られたパンに神戸ビーフのパテとピクルス、チーズ、トマトを挟んでいる。パンは元町の人気店「パンやきどころRIKI」のもので「VIEW BAR(ビュー・バー)」用に特別に焼いているのだという。「しっかり食事が摂れるようにとメニュー構成しました。だからダイニング利用もできるんですよ」と鍬先シェフは説明してくれた。田淵さんの作る酒を飲み、鍬先シェフら料理人が作る料理を食す。まさにここ一軒で全てが済んでしまう。そして最高のアテは、神戸の夜景なのだ。バーとしてはちょっと出来すぎの環境で、少しズルいような気さえする。
VIEW BAR(ビュー・バー)
住所神戸市中央区波止場町5-6 神戸メリケンパークオリエンタルホテル14階
TEL078-325-8110
営業時間17:00~24:00
定休日無休