2012年11月15日
曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」
酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。
大阪府・茨木市 BAR Lime Light(バー・ライムライト)
先月、一通の封書が届いた。中を開けると、オープンのお知らせである。阪急茨木市(大阪府茨木市)駅前に「BAR Lime Light(バー・ライムライト) 」が開店したと書かれている。送り主は磯田修身さん。このコーナーで以前取材した「Beso Mary.r(ベッソ・マリアール)」の店長を務めていた人物である。そういえば春に店に行った時に「独立しようと思っているんです」と話していた。「もし独立したら知らせてくださいね」と言う私の言葉を覚えていてくれて、律儀に知らせてくれたようだ。
茨木には阪急茨木市駅前とJR茨木駅前に繁華な街がある。その2つを比較すると、より繁華なのは阪急側かもしれない。阪急茨木市駅を降り、東口を出る。そうすると、阪急東中央商店街が見えてくる。その通りを進み、「STEP」の角を左折すると、「バー・ライムライト」があるツインリーブスがあるのだ。このマンションの1階部分に同店は位置している。磯田さんは茨木の出身。以前からこの場所に目をつけていたそうだが、独立時期まで空いているかどうかが心配だったそうだ。「独立するなら地元でと決めていたんですよ。この物件を初めて見た時に自分のやるバーのイメージが湧きました。1年半、誰も借りなかったのがラッキーでしたね」。
磯田さんは「ベッソ・マリアール」に8月25日まで勤めていた。そこにいた8月中に工事をしてもらい、9月15日にオープン。だから色んな人に案内を出すのも遅れてしまったらしい。
31歳の店主・磯田さんが開いた店は、まるで北新地にあってもおかしくないような立派な造りである。18坪と、この手の店にしては広く、カウンター10席とボックス席が2つの構成だが、全てがゆったりととってあるために空間を贅沢に使っているといえよう。
磯田さんは、自分の作りたい空間をまずデッサンし、その絵を設計士に渡した。デザイナーと内装屋がともに知人だったのも幸いして自分のイメージしたものができあがったと話している。「お客様が座る所と触る所には、こだわりを持ちたかったんです」と磯田さんは言う。来店客はまず視覚から入る。故にローカル(茨木)だからといってそれなりのものにしたくはなかったのだとか。銀座や北新地にあるような立派な内装で目を惹かせ、カウンターに座って上質なものに触れてもらう。そのためには肌触りのいい椅子と、木の温もりのあるカウンターがどうしても必要だったと言う。
「バー・ライムライト」は、これまで茨木になかった空間である。オープンして1カ月ほどだが、その評判を聞いて色んな人が訪れるらしい。年齢層も20代~60代と幅広く、時には60代の夫婦がやって来てウイスキー一杯だけを飲んで帰るそうだ。そんな光景をカウンター内から磯田さんは見て、当初イメージしていた"大人になれる空間"が提供できたのでは・・・とほくそ笑んでいる。
もともと磯田さんは、地元のバーで働いていた。だが、茨木の中では仕事に限界が見えてしまった。自身の基 礎力をアップするのと、世間を勉強するために北新地へ行った。「ベッソ」で6年間勤め、名バーテンダー・佐藤章喜さんに基礎から接客まで全て教わった。北新地での修行がよかったのであろう、その結果として茨木の地にこのような洗練されたオーセンティックバーを開くに至ったのだ。
久しぶりにあった私に、磯田さんは「山崎」を薦めてくれた。このところ秋になると、恒例になっている「山崎」のシングルモルトシリーズ(限定品)だ。
サントリ-山崎蒸留所で造られたシングルモルト「山崎」も、その熟成する樽によって味が異なってくる。その味や香りの違いを楽しんでもらおうと、秋になると「シェリーカスク」「バーボンバレル」「パンチョン」「ミズナラ」の4つを数量限定で出している。そのいずれもアルコール度数48度で仕上げた、冷却濾過を施していないモルト原酒で、熟成樽によって香味が変わっている。
ちなみに「山崎シェリーカスク」は、スパニッシュオーク由来のバランスよい甘みや酸味、凝縮された果実香のフルーティさが特徴。
一方、ホワイトオーク使用のバーボンバレル樽で熟成したモルト原酒のみをヴァッティングしている「山崎バーボンバレル」は、少し赤みがかった黄金色をしており、立ち上がる香りからは、甘いバニラや蜂蜜を連想させる。
同じ北米産のホワイトオーク材でもパンチョン樽で熟成させたモルト原酒のみをヴァッティングしている「山崎パンチョン」は、透き通る黄金色。ホワイトオーク由来の華やかな樽熟香が感じられ、甘いバニラを思わせる。
熟成樽の違いによって生まれた傑作が「山崎ミズナラ」といえよう。これは日本ならではのミズナラ樽で育くまれたもので、希少なモルト原酒だけを選んでヴァッティングしている。赤みがかった琥珀色をし、香木や伽羅を感じるオリエンタルな香りがする。口に含むと、その熟成感が味わえ、余韻は長くのびる。
磯田さんはその4種の中から「山崎シェリーカスク」を選ぶと、即興でオリジナルカクテルを作ってくれるのだという。題して「ジャポネス」、あの「アドニス」を少しアレンジしたものだそう。
まずミキシンググラスにアイスピックで砕いた氷を入れ、ステアしながらグラスを冷やしていく。溶けた水を抜くと、そこへ「アンゴスチュラ・ビターズ」を一滴垂らす。それから「チンザノスイートベルモット」を10ml、「山崎シェリーカスク」を50ml注ぎ入れ、少し長めにステアするのだ。
磯田さんによると、ロングステアすると、ウイスキーの甘さが軽減されてしまうのだとか。冷えすぎると、酸味も立つので、ウイスキーの腰を砕かぬようにステアするのがいいらしい。さりとてしっかり混ぜないと混ざらないので、そこにコツがあると彼は話してくれた。
このステアしたものを、グラスに注ぎ、オレンジツイストを飾り、さらにピックに刺したグリオッティーヌ(サクランボのリキュール漬け)を加える。
このようにしてお目見得した「ジャポネス」は、ウイスキーの味が利いたショートカクテルだ。ウイスキーの甘みの中にある複雑な味わいを醸し出すためにチンザノを用い、ハーブの薬酒「アンゴスチュラ・ビターズ」で苦味をつけている。
「このようにした方がウイスキーの奥行きが出るのではと思ったんです。苦味がちょっぴり加わっているので、ウイスキーの味がさらに印象付けられるでしょ」と磯田さんは言う。
シェリー酒とスイートベルモットで作る「アドニス」には、美少年の意味があるらしい。フェミ男のような美少年より、骨のある日本男児を作りたい。そんなイメージから創作された一杯であろう。「骨格の弱いシェリー酒よりもシングルモルトの代表『山崎』を使えば芯がしっかりすると思ったんです。しかも『山崎シェリーカスク』はシェリー樽で熟成しているので『アドニス』のアレンジ版にはピッタリ。少しは芯の通ったカクテルを表現できましたか?」と聞く。私はウイスキーの味がうまく利いたこのカクテルを飲みながら茨木の地で独立し、この店で勝負していきたいという磯田さんの心意気のようなものを感じた。
磯田さんは、ベースとなった「山崎シェリーカスク」を、甘みがあってビター感があるウイスキーと表現している。甘みがあるから人気があるのだとも言い、水割りやハーフロックに適していると付け加えた。
そういえば、以前このコーナーで磯田さんのことを書いた時には「白州シェリーカスク」のトワイスアップを紹介した。彼が作ってくれたそれは、「白州」の個性でもある荒々しさを消して口当たりのいい優しい味わいへと変貌させていた。「せっかく曽我さんが来てくれるというんで、シェリー樽つながりで、カクテルを創作してみたんですよ」と言う磯田さんの言葉に、以前のことを覚えてくれていたんだと思い、嬉しかった。「山崎シェリーカスク」という芯が入った「ジャポネス」は、昨今何かと曖昧になりがちな世相に一石を投じたものである―。そう書いてしまいたくなるような味わいだった。
住所大阪府茨木市双葉町2-3 ツインリーブス1F
TEL072-601-0261
営業時間日~木曜 18:00~翌3:00 / 金・土曜 18:00~翌5:00
定休日不定休