曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~APOLLO(アポロ)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

銀座で体験した紅茶リキュールの可能性

東京都・銀座 APOLLO(アポロ)

バーの登竜門的な店であれたら・・・

 久しぶりに銀座で食事をしていた。関西を根城にしている当方としては、貧乏暇なしなのか、なかなか上京する機会に恵まれない。今回は別の取材もあり、東京へ来たのだが、よ~く考えればこの時期にして2013年初の東京となってしまった。銀座はよく大阪の北新地と比較されがちだが、ことバーに限っては両地は第一級繁華街らしくレベルは高い。ただ両地のバーを比べてみると、北新地はウイスキーを好む客が多いのに対して、銀座はやたらとカクテルが出ているように思う。以前、銀座の人気バーで飲んでいた時のこと。ふと周りを見回すと、全員がカクテルを飲んでいた。こんな風景はまず北新地では考えられないのではなかろうか。

 そんな嗜好の違いを話していたらある人から「APOLLO(アポロ)」なるバーを教えてもらった。何でもここの店主(バーテンダー)の小松秀徳さんは、サントリーのグルメ開発部に籍を置いた経験があるらしく、ユニークな一杯を提案してくれるそう。ならば・・・とばかりに「アポロ」のある明興ビルまで足を向けた。

 明興ビルはJR有楽町駅から徒歩5分ぐらい、銀座コリドー街のそばに位置している。地下へと階段を降りたところにある「アポロ」は、ドアも側面もガラス張りになっているために廊下から中の様子が窺える。そのためだろう、あまり土地になじみのない私でも気軽に入ることができた。店はカウンター中心で、大きなボックス席がひとつある。店主の小松秀徳さんは、気やすそうな人柄で、ここなら初心者でも肩肘張らずに楽しめそうな雰囲気だ。聞けば、小松さんは仙台の出身らしい。大学時代を秋田で過ごし、アルバイトをしていたバーにそのまま居着いてしまったそうだ。しばらくその「ダックスフンド」という店にいたようだが、その後、仙台へ帰り、色んなバーに勤めていた。そして一度は日本の頂点ともいうべき都の地で働いてみたいと考えて上京、南青山のとあるバーで仕事をしていた。仕事帰りにふと目にした求人広告で、意外な道へと歩み始める。その広告には「現場経験10年以上で、腕に自信のある人を求む」と書かれていた。何あろうサントリーが出したグルメ開発部の求人広告である。「この広告を目にしたのがきっかけでサントリーにお世話になることに。グルメ事業部では、開業の手伝いをしたり、リキュールの使い方やカクテルの提案、セミナーの講師と、色んなことをしてきました」。気づけば14年半サントリーに籍を置いてたという。小松さんの夢は、自分の店を出すこと。年齢を考えれば、そろそろ潮時と、後ろ髪を引かれる思いでサントリーを辞し、9月4日に独立を果たしたそうだ。

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 「エッ!?その9月ってもしや今年の・・・」そんなピンボケた質問に小松さんは「そうですよ」とあっさりと答えた。なぜそんなことを聞いたのかといえば、「アポロ」が少し年季の入った店のように思えたからだ。居抜きで入ったのかと聞けばそうでもなく、「スケルトンの状態から自分なりに造った」と言う。小松さんはアメリカに行き、色んな店を見て回ることで自店のイメージを膨らませて行った。「銀座には照明の明るいオーセンティックBARがたくさんあるので、BARをご利用いただいた事のないお客様でも気軽に使っていただける様に中を覗ける様な造りにしているんです。バーに行ったことがない人でも気軽に入れるような造りにし、バーの登竜門的な印象をつけているんです」と小松さんは説明してくれた。小松さんの話では、バックバー部分や店内のレイアウトは全て自分で考えたそうだ。棚の細かいレリーフの組み合わせやレンガを施した内装など全てが小松さんの頭の中から出てきたものらしい。特に面白いのはカウンター。スタンダードな木のカウンターではなく、大理石を使っている。大理石だけだと緊張感が生じると、奥側には真鍮板を用いているのだ。小松さんはアメリカで見てきたからとさらりと言うが、サントリーグルメ開発部での経験もいきているのだろうと思った。

今日は「ティフィン」三昧で・・・

 ところで私が小松さんと話しながら飲んでいるものはといえば、「ティフィン」を用いたカクテルである。私は夏場に喫茶店へ入って何も考えずに注文する時は、いつも決まって「アイスティーのストレート」だ。個人的嗜好として、コーヒーよりは紅茶派。だから一時はバーで「ティフィン」をよく注文していた時期もあったほどだ。この日も「アポロ」で「ティフィン」のボトルを見つけ、「それで何か作ってよ」と小松さんに願い出た次第である。

 小松さんは「ティフィン」を「香りが華やかで、紅茶の持つ伝統的な味わいを醸し出している」と評している。紅茶の持つ丸みや柔らかさ、温かみが出ているリキュールだとも語っている。私はいつも「炭酸で割って」と、あんちょこな注文をするのだが、せっかく評判のバーに来たのだからと、小松さんに委ねることにした。

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 小松さんが提案してきたのは「ティフィンレモネード」なるカクテル。

グラスに角氷をしっかりめに入れて、「ティフィン」45mlを注いで作る。それからフレッシュレモンジュースを20ml入れ、シュガーシロップ5ml、ミネラルウォーター適量を加えてステアする。そして最後にフルーツワイン(30ml)を静かにフロートさせるのだ。

小松さんが用いたフルーツワインは、甘酸っぱいもの。ただ一般的なワインの甘酸っぱさではなく、葡萄ジュースに近い味であった。このフルーツワインがフロートされている状態で口に含むと酸味がまず感じられる。だが、香りといい、全体的な雰囲気といい「ティフィン」を使っているだけに紅茶のイメージが伝わってくる。そしてゴクリと飲んだ後は、紅茶っぽい風味が口内に残る。「紅茶のリキュールをベースにしているからと言って、思いっきり紅茶っていうような味では芸がないでしょ。『ティフィン』は柔らかい風味が特徴。他の紅茶リキュールより味の主張が少ないです。その個性をいかした一杯とでもいえるでしょうか。

口に含んだとたんにいきなり紅茶感が出るのではなく、徐々に紅茶の印象が広がっていく、そんなカクテルなんですよ」。ゆっくり飲みたいとか、話しながら寛ぎたいという時に最適なカクテルだとか。「オールタイムで楽しめるのもいいですね」と小松さんは付け加えていた。

 小松さんは「ティフィン」を「他のリキュールに比べて気品がある」と言う。主張しすぎない味がよく、色んなシーンでも対応できると高評価している。「ティフィン」といえば、ロングカクテルと相場は決まっているが、時にはショートスタイルのものに用いてみるのも面白いと話す。その例として作ってくれたのが「ティフィンロイヤルミルク」だ。平たく言えば、ロイヤルミルクティーをカクテル化したもの。「なじみのあるものを加えたいと思い、牛乳を用いることにしました。普通に牛乳で割っただけでは面白くないのでコニャックを使ったんです。ほら、紅茶にブランデーを垂らすでしょ。そのイメージで・・・」。

 このカクテルは、まずグラスリムにシナモンシュガーをつけて作る。そうバーでよく出されるスノースタイルである。そしてシェイカーに「ティフィン」30mlとコニャック10ml、生クリーム20mlを入れてシェイクし、スノースタイルのカクテルグラスに注ぐ。「ティフィンミルク」は誰もが知っているのだが、この「ティフィンロイヤルミルク」は、もう少しこだわりを持たせたもの。甘く華やかな強い味わいが喉を潤していく。このショートカクテルを飲みながら小松さんの言う「紅茶のリキュールは大半がロングで、ショートの分野に踏み込んでいない」ということを考えた。なぜなんだろう。それは固定観念が影響しているからか。もしショートに用いれば、さらに「ティフィン」の汎用性は広がっていくはずだ。

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 「スピリッツと合わせるのも面白いですよ。例えば『ティフィン』1に対し、スピリッツ2で割る。『ティフィン』の有す香りは、スピリッツを用いることでさらに華やいだものになるはずなんです。何度も言いますが、『ティフィン』は、他の紅茶リキュールのように主張しすぎない点がいいんですよ。キリッとしているけど、紅茶フレーバーが広がる。きっといいカクテルができると思うんです」。

 そんな話についつい釣られ、考えれば3杯の「ティフィン」カクテルを飲んでいた。ちなみにもう一杯は、「ミックスベリー・ティフィン」。すっきり系のロングカクテルである。冷凍フルーツを使ったこの一杯はブルーベリーやラズベリーが入っているからだろう、見た目にもポップで、いかにも女性ウケしそうだ。「ティフィン」をミネラルウォーターで割って冷凍果実を入れて作っている。リキュールを水で割るという発想は、あまり日本では根づいていない。どうしてもウイスキーの水割りのような印象を与えるからだろう。小松さんはバーで働いていた時代にそれを試して旨いと感じたそうだ。なのでこのカクテルにもその手法を用いた。紅茶のリキュールといえば炭酸で割るイメージが強いのだが、小松さんは多くのバーテンダーにこのレシピから水で割る面白さを発見してほしいと話していた。だから最後に「ミックスベリー・ティフィン」のレシピを記しておく。固定観念とは、時に人の思考の邪魔をする。そんなことを「アポロ」で3杯のカクテルを飲みながら実感した。

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●ミックスベリー・ティフィンの作り方

①グラスに氷を入れる。
②ティフィン45ml、レモン5mlを注ぎ、ミネラルウォーターで満たす。
③冷凍ミックスベリーを適量加えて、ステアする。

●APOLLO(アポロ)

お店情報

住所東京都中央区銀座8-2-15明興ビルB1

TEL03-6280-6282

営業時間18:00~翌4:00(土曜は~24:00)

定休日日祝日

メニュー
  • ジン・フィズ1000円
  • ジン&トニック1000円
  • モスコー・ミュール1200円
  • 山崎12年ハイボール1000円
  • 白州12年ハイボール1000円
  • 響12年(ショット)1000円
  • 響17年(ショット)1700円
  • ※「ティフィン」を使ったカクテル参考売価1000円
↓「ティフィン」の製品情報はこちらから↓
https://bartendersclub.suntory.co.jp/brand/2013/12/index.html
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