曽我和弘のBAR探訪記「噂のバーと、気になる一杯」 ~BAR JUNIPER(バー・ジュニパー)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

蜂の膝の意を持つシュートカクテル

大阪・北新地 BAR JUNIPER(バー・ジュニパー)

煩悩の数だけジンを揃えたバー

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「北新地にジンに特化したバーができた」。そんな声を聞いたのは確か3年ぐらい前だったと思う。いかにも私が興味がありそうなので伝えてくれたのだろうけど、結局行くきっかけが見つからず、今日になってしまった。北新地にある「BAR JUNIPER(バー・ジュニパー)は、「THE BAR ELIXIR・K(ザ・バー・エリクシール・ケイ)」の姉妹店にあたり、かつて心斎橋の「オールドコース」で働いていた高橋理さんがバーテンダーを勤めている。「ザ・バー・エリクシール・ケイ」の川崎さんと高橋さんは師弟関係にある。酒のこともわからず全くの素人のような状態でバーに入った高橋さんに手取り足取りしてバーテンダーとしての基礎を叩き込んだのは、当時「オールドコース」に勤めていた川崎さんだった。6年前に川崎さんは、独立してリキュールに特化したバー「ザ・バー・エリクシール・ケイ」を開いたのだが、その後も高橋さんは「オールドコース」に残り、安岡さんのもとで仕事に就いていた。都合7年同店に勤めていたものの、新天地を求めて高橋さんが巣立ち、色んなバーにヘルプの形で入っていた。すると、川崎さんから「2号店を北新地で開くので来てみないか」と声がかかったのだ。

「バー・ジュニパー」は、全日空ホテルの北側にある。通りを歩くと、奥にバーらしきものが見えるが、そこには入口がない。入口は店の東部分にあるのだが、少しわかりにくい。「オールドコース」のように通りから少し奥へ入ると、扉が現れる仕様になっている。そのわかりにくさが、何ともいい。隠れ家的要素があるとでも表現しておこうか、いかにも知っておくと、通ぶって扉を開くことができそうなのだ。「バー・ジュニパー」のカウンターの後ろには昔の薬局の如く薬棚がつくられている。これは川崎さんが長く温めていたプラン。「ザ・バー・エリクシール・ケイ」を開く時にそんな内装にしたかったそうだが、奥行が必要となることから断念したのだとか。今回、ジンに特化するということで、念願の薬棚仕様を施したわけだ。そもそもジンはエリクサー(万能薬)のひとつだった。1960年代にオランダ・ライデン大学で解熱剤の一種として開発。その製造過程でできたものらしい。だからこの店は薬棚をつくっている。流石に引き出しに薬は入っていないが、ジンやウイスキーのボトルが収められており、注文を聞くや、その棚箱を開けて一本一本取り出していく。こんな風景も「バー・ジュニパー」ならでは。ちなみにこの店ではジンが108種もある。揃えようと思えば160種ほどいけるそうだが、「何となく煩悩の数っぽくて面白いでしょ」と高橋さんは説明していた。

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高橋さんは、せっかくジンに特化したバーを任されているのだからもっと勉強すべきだと考え、昨秋にオランダ、ベルギー、フランスを巡る旅に出た。「ハッセルトの町にベルギー国立ジュネヴァ博物館があって、祭りを行っている日に合わせて見学して来たんですよ。そこではジンの発祥はオランダではなく、ベルギーだと言っており、「我々が最初にジンを開発した」と謳っていました。当時はベルギーはネーデルランドの一部で、錬金術がハッセルトを経由してオランダに伝わったといわれている。ちなみにエリクサーには、錬金術の霊液との意味もある。高橋さんはジンのルーツを求めて北から南へと下って行った。ウイスキー好きがアイラ島を目指すのと同様に、ジン派にはまさに刺激的な旅だったようで、「深く勉強ができたのもさることながら、感覚が変わった」と言い、旅後はクリーム系カクテルをよく作るようになったそうだ。

「バー・ジュニパー」には薬棚の他にもオシャレな部分が沢山ある。その代表といえるのがカウンターに刻まれたジュニパーベルの印。もみの木のような葉の間に注文された品(グラス)が置かれる。これがこの店ではコースター代わり。ジュニパーの刻印の所にグラスを置き、そこにスポットライトが当たる設計になっている。こんな所にも川崎さんのこだわりが見られる。

ところで店名になっているジュニパーについて少しふれておかねばなるまい。ジュニパーはヒノキ科の常緑低木を指す。その実から得られるエッセンシャルオイルは、ジンなどの香りづけに使われている。ジュニパーベリーの果実は、苦みを含んだ松脂に似た香気を持っている。ジンなどリキュールの風味づけにはその実が欠かせないそうだ。

ビーフィーター24と龍眼の蜂蜜が、この味を形成する

ジンが108種類もあるバーに来たのだから、やはりジンベースのカクテルを頼まねばと思い、お薦めカクテルを作ってもらうことにした。高橋さんが数あるカクテルの中から作ってくれたのは「ビーズニーズ」。蜂の膝の意を持つショートカクテルである。このカクテルには「ビーフィーター24」なるジンが使われている。同ジンはロンドンドライジンのひとつで、日本の煎茶や中国緑茶、グレープフルーツを加えた計12種のボタニカル類を使用しており、それらを24時間浸漬した後に蒸溜して造っている。フレッシュで優しい味わいを実現するために全溜・本溜・後溜のうちごくわずかな量の本溜のみを使用していたのだとか。

高橋さんは「ビーズニーズ」を作るにあたってまず私の前に「ビーフィーター24」とレモンジュース、龍眼の蜂蜜を用意した。ちなみに龍眼は「ロウガン」と読む。龍眼から採れる蜂蜜のことで、リンゴのような感じの味がし、他と比べても甘みが強い。また紅茶を入れているわけではないのになぜかそんな香りも有している。

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「ビーズニーズ」の作り方は、まずレモンを半分に切ってジュース(10ml)を搾り、シェイカーに注ぐ。そしてそこに龍眼の蜂蜜(約10ml)を加えてなじませる。この作業がちょっと大変で、なかなか溶けにくく、殊に龍眼のそれは濃厚そうなのでかなりの作業を繰り返さねばならないようだ。蜂蜜とレモンジュースが混ざり合い、どろっとした液体になったら「ビーフィーター24」40mlを注ぎ入れ、さらなになじませていく。あとは氷を入れてシェイク。これで「ビーズニーズ」ができあがるのだ。

ジンは柑橘系との相性がいい。だからレモンジュースを用いたのだが、龍眼の蜂蜜がその酸味をうまく柔らげ、酸っぱいわけでも、甘いわけでもない、まさにその中間的な味を醸し出している。高橋さん曰く「女性ウケがいい」のは、飲めばわかる。すきっとしながらも甘みのある味わいは女性にとって飲みやすく、杯を重ねそうな一杯だ。高橋さんによると、この龍眼の蜂蜜を使わないとこの味が出ないとのこと。龍眼のそれはくどい甘みではないが、とっても濃そうな味。そこに「ビーフィーター24」のお茶が持つ香ばしい苦みが加わり、こんなに飲みやすくなるのだろう。

高橋さんは、マティーニなどのドライ系カクテルや、アレキサンダーのような超甘口には「ビーフィーター24」が合うと語る。日本の煎茶のような香ばしい苦みと中国緑茶から来るような甘みがあって実にバランスのいいジンだとも評している。一方、「ビーフィーター40」は、アルコール度数が40度なのでショートカクテルに用いるにはややパンチにかけるが、ジントニックなどのロングカクテルにはとても向いているという。加えて「ビーフィーター47」は、ショート、ロングともに向いており、高橋さんもよく利用しているそうだ。ジントニック、マティーニ、ジンリッキーとの色んなものを作る時のベースに使用している。「ビーフィーター24は、47ほど強くないのですが、アルコール度数が45度なので、とっても使いやすいですね。甘みを伴うフルーツ系カクテルやクリーム系のものによく合います」。このクリーム系というのがオランダやベルギーで新たな相性として発見してきた嗜好だ。一見、ミスマッチのように思えるが、これが新しい味なのだとか。

今回、「ビーズニーズ」を作るにあたって高橋さんは龍眼の蜂蜜を用いたわけだが、蜂の膝の意味からも受粉するイメージを持たせようと思ったという。そこでビーポーレンなる花粉を集めて固めた健康食品を使ってはみたものの、なんとなく粉っぽくなったのでやめた。しかし、龍眼の蜂蜜を使っただけでもそのカクテル名の意味は十分伝わる。「タイムの蜂蜜だとスパイシーになって薬草感が出ます。それをライチの蜂蜜に代えるとフルーティになる。同じカクテルでも使用する素材でかくも風味が変わってくるんです」と高橋さんは言う。そうして考えると「ビーフィーター24」と龍眼の蜂蜜の組み合わせが、目の前の「ビーズニーズ」の味を形成していたことがわかる。旨いからと飲み干してしまう前に、まずは高橋さんのベストチョイスに拍手を贈りたい。

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BAR JUNIPER(バー・ジュニパー)

お店情報

住所大阪市北区堂島1-4-4 NJビル1F

TEL06-6348-0414

営業時間17:00~翌3:00

定休日不定休

メニュー
  • ビーズニーズ1400円
  • ビーフィータートニック1200円
  • ビーフィーターマティーニ1400円
  • 年代ものの(オールド)ビーフィーター1800円~
  • 響12年1200円
  • 山崎12年1400円
  • 白州12年1400円
・価格は全て税別です
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