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【インタビュー】「カクテルアワード2015」受賞の窪内那奈さんに聞く〝オリジナルカクテル〟への飽くなき情熱

〝大会のため〟ではなく、〝お客様のため〟を意識したカクテル作り

今年も参加者の募集が始まった日本一のカクテルを決めるバーテンダーの祭典

日本一のカクテルを決めるバーテンダーの祭典として、これまで22回もの歴史を積み重ねてきた『ザ・カクテルアワード』。今年も国内最高峰の名誉をかけた戦いの参加者募集が始まっている。
『2016 ビームサントリー ザ・カクテルアワード』と題された今年の大会は、ショートカクテル部門とロングカクテル部門の2部門で争われ、「メーカーズマーク」「メーカーズマーク46」「テキーラ サウザ ブルー」「テキーラ サウザ ブルー レポサド」「ルジェ14種」の中からいずれかを20ml以上使用したオリジナルカクテル創作が課題となっている。ただし、審査対象は味や見た目だけではない。国内で最も伝統のある同大会では、ネーミングや独創性、技術やプレゼンテーション能力など、バーテンダーとしてのあらゆる資質が審査基準となるのだ。これらの厳しい審査を経てアワードに輝いた優勝者には、まさに日本一のバーテンダーというに相応しい栄冠が与えられる。
そして、昨年の大会の頂点に立ったのが、高知県で『Cafe Bar STAR LIGHT』を経営する窪内那奈さんが創作した『Red Cattleya』だった。見事日本一の栄光に輝いた窪内さんに、バーテンダーを志すようになった経緯や、オリジナルカクテルに対するこだわり、アワード獲得後の変化などについて伺った。

※今回の撮影は開店前の明るい時間帯に行われています。実際の営業時とは、店内の雰囲気に若干の違いがあることをご了承ください。

地方でも全国に通用するレベルの技術を身につけられるという揺るぎない事実

高知県で生まれ育ち、高校卒業と同時にバー業界へ飛び込んだという窪内さん。バーテンダーという仕事を志したきっかけを訊くと、「料理人を目指していた時期もあったんですけど、何か珍しい仕事に就きたいという気持ちがあったんです。当時は今よりも女性バーテンダーというのが少なかったので、この仕事に興味を持つようになりました」という回答が返ってきた。20歳になるまでは、掃除や洗い物などの仕事をこなしながら、先輩バーテンダーの所作やお酒に関する知識を学んでいったという。
その後、いくつかのバーで経験を積み、2011年6月に、地元・高知で『Cafe Bar STAR LIGHT』をオープン。ホテルバーで働いていた際に、純粋にバーテンダーとしてだけではなく、時に他の業務にもあたらなければならないことに疑問を抱き、「やはりバーテンダーという職にこだわって仕事がしたい」と思ったのが独立に踏み切るきっかけだったそうだ。
出店に際して、高知を選んだ理由を尋ねると、「ある程度、修行を積んだら東京や大阪に行くという方は多い」とした上で、「高知は食材が豊かなので、ここでも十分に美味しいお酒が作れるし、勉強もできるんじゃないかなと思って、地元に残ることを選択しました」と語ってくれた。実際、『Cafe Bar STAR LIGHT』のメニューには、地元で採れたフルーツをふんだんに使ったカクテルが名を連ねており、ここでしか出会えない一杯が味わえる。そして、この地で経験を積みながら、日本一のカクテルの称号を勝ち取ったという事実は、都会でなくとも高いレベルの技術や知識を身につけられることを何よりも明確に物語っている。

バーに馴染みのない女性にも気軽に足を運んでもらうための工夫

『Cafe Bar STAR LIGHT』には、窪内さんの他に2人の女性バーテンダーがおり、すべて女性スタッフという体制で経営されている。この点について、窪内さんは「昔だと、バーテンダーは男性の仕事というイメージが強かったんですけど、今は女性でも活躍できる場なので、後進の育成もかねて女性スタッフだけで営業しています」と説明。現に、昨年の『ザ・カクテルアワード』では、最終選考会に残った6名のうち4名が女性バーテンダーで、最優秀賞と優秀賞に輝いた3名はいずれも女性だった。このことからも、近年の女性バーテンダーの目覚しい躍進が見て取れる。
バー業界で女性の活躍が目立つようになってきたのにつれ、バーを訪れる女性客も増えているようだ。『Cafe Bar STAR LIGHT』も、以前は男性客が多かったそうだが、最近では女性客も増えているという。女性バーテンダーがいるお店だからこそ、女性客が入りやすいという理由もあると思われるが、それだけではなく同店には気軽に訪れやすい雰囲気を作る工夫が随所に見て取れる。例えば、壁の色。バーでは、落ち着いた大人の雰囲気を演出するために壁の色はトーンが抑えられていることが多い。しかし、『Cafe Bar STAR LIGHT』では、壁の色に白を採用。落ち着いた雰囲気を損なわずに、明るく、入店しやすい雰囲気を作り出している。
また、お店のネーミングにも間口を広くする工夫が感じられる。『Cafe Bar STAR LIGHT』は、昼間にカフェ営業をしているわけではない。それにも関わらず、店名に「Cafe」という単語が用いられているのは、女性でも気兼ねなく訪れてほしいという気持ちが込められているという。実際、メニューには自家製ケーキやスイーツなど、女性に嬉しいメニューが並んでおり、お酒の後に飲めるコーヒーも用意されている。こういった女性ならではの視点が、年齢や性別を問わず多くの人から支持される理由のひとつなのだろう。

日本一のカクテルに込められた「お客様に楽しんでもらいたい」という想い

オリジナルカクテルを作る際、窪内さんは、最初にネーミングから考えるという。昨年の『ザ・カクテルアワード』で最優秀賞に輝いた『Red Cattleya』は、メーカーズマークのシンボルカラーである〝赤〟と、「品格のある優雅な女性」という花言葉を持つ〝カトレア〟という花の名前を組み合わせたカクテルで、絹のようなしなやかな味わいと、想像力に富んだ創作のテーマ性で、審査員を唸らせた。
窪内さん曰く、このカクテルを作る上で重視したポイントは「スタンダードに近いレシピ」とのこと。その理由については、「大会だけのカクテルになってしまうのは良くないんじゃないかなという気持ちがあったんです。お店の営業中でも簡単にお酒がそろって、お客様に提供できるものを作りたかったので」と話してくれた。彼女にとってオリジナルカクテルとは、大会で勝つために創作するものではなく、あくまでお客様に楽しんでもらうためのお酒なのだ。この姿勢は、窪内さんがバーテンダーという仕事をどのように捉えているかを物語っている。
実際、『Red Cattleya』は、お店のレギュラーメニューとして提供されており、これを目当てに訪れるお客様も多いそうだ。「バーボンが苦手な方でも飲みやすいということで、女性のお客様からのオーダーも多くいただいています。ショートカクテルなので、しっかりと度数があるのですが、それでも何杯も飲んでいただけたりするのは本当にありがたいですね」と嬉しそうに語る様子が印象的だった。
作る際のポイントは、「バーボンの風味を飛ばさないように優しくシェイカーを振ること」だとか。レシピや作り方のコツを公開している点にも、ひとりでも多くの人に美味しいカクテルを味わってもらいたいという窪内さんの想いが感じられる。

「テキーラ サウザ ブルー」を使用した夏にぴったりなオリジナルカクテル

この日の取材では『Red Cattleya』のほかに、『2016 ビームサントリー ザ・カクテルアワード』の課題製品のひとつになっている「テキーラ サウザ ブルー」を用いたオリジナルカクテルも作っていただけることになった。窪内さんが、この日のために創作してくれたのは、『マーブルローズ』と名付けられたオリジナルカクテル。夏に向けた、爽やかな一杯だという。
使用されるのは、「テキーラ サウザ ブルー」と「マンゴヤン」、それにオレンジジュースと自家製のジンジャーシロップが加えられる。ポイントとなるのは、高知産のスモモ。南国市で生産されたスモモを、半分は皮を剥き、もう半分は皮がついたままの状態でクラッシュアイスと共にブレンダーで混ぜ、全体がソルベ状になるように仕上げる。それをゆっくりと注ぐと、カクテルグラスの中には鮮やかなオレンジ色にスモモの皮が散りばめられた美しいマーブルローズが咲き誇った。最後に、高知県黒潮町で生産された粗塩をひとつまみ振りかけて完成。地元の食材を使うというこだわりが詰まった、この時期だけのオリジナルカクテルができあがった。
実際に飲んでみると、シャーベット状のカクテルが舌の上で溶ける感覚と共に、スモモのフレッシュなフレーバーが口いっぱいに広がる。塩によってテキーラの甘さが引き立てられ、ほのかに感じられるジンジャーの味わいが全体を引き締めるアクセントになっている。「100%ブルーアガベなので、けっこう味は濃いんですけど、その深みのある味わいを活かしたい」という創作意図の通り、「テキーラ サウザ ブルー」の味わいを存分に堪能できる一杯に仕上がっており、スモモがある時期に限り、お店でも提供する予定だという。
このように、『Cafe Bar STAR LIGHT』では季節に応じて、様々なメニューが提供されている。ここはまさしく季節を感じられるバーなのだ。窪内さんは、こうした経営スタイルを寿司屋に例えて説明してくれた。
「お寿司屋さんって、季節によって旬のものが出てくるじゃないですか。お客様との間でも、今日は新鮮なイカが入ったよといった会話が自然にあるんです。同じように、うちでもお客様から桃はいつ入るの?って聞かれたりすることがあります。もちろんスタンダードなカクテルも作るんですけど、そうやって地元でとれた旬な食材をどんどん活用していきたいという意識はありますね」
お客様に喜んでもらうために旬の食材を探すというのも、窪内さんがバーテンダーとして実践している大切な仕事のひとつ。地元の食材が売られる直売店などに通って、常に新しいカクテルの素材を探しているという。このように、近場で採れた食材が新鮮な状態で手に入るというのも、地方ならではのメリットだといえるだろう。

前回優勝者の窪内さんが貫いた〝お店で出せるカクテル〟という指針

『ザ・カクテルアワード』で優勝して以降の変化について尋ねてみると、窪内さんは「やはりお客様は新しい方が増えたと思います。県外から来てくださるお客様もいますね。その期待に応えるというのは、すごくプレッシャーでもあるんですけど、とてもいい経験をさせてもらっているという実感があります」と答えてくれた。ただし、「大会で良い成績を残すだけで終わってしまってはダメだと思います。本当にお店の仕事ができた上での、大会だと思うので」という意識は強く持っており、あくまでお店の仕事ができてこその大会というスタンスは崩さなかった。その上で、大会に出場することの意義について質問すると「技術を磨く場ではありますね。大会に出ている人と、出ていない人では、やはり立ち居振る舞いが違うんです。レシピだけでなく、作業態度なども審査の対象となるので、自分に足りない部分を気付かされたり、他の人のレベルを知るという意味で、とても有意義な場所だと思います」という回答が得られた。そういった思いから、大会への出場は若いバーテンダーにも積極的に勧めているそうだ。
昨年の『ザ・カクテルアワード』を制した窪内さんには、優勝賞金のほかに、「ケンタッキー・ニューヨーク カクテルの旅」が贈呈された。ケンタッキーでは蒸溜所を巡り、ニューヨークでは現地のバーを訪れたという。メーカーズマークの蒸溜所では、働いている人たちが楽しそうに仕事をしている様子を目の当たりにして、作り手が本当に好きでウイスキー作りをしていることを実感。作り手の想いを知ることで、お店でも今まで以上に大切に提供しようと思ったそうだ。同様に、ニューヨークのバーでも、バーテンダーが楽しそうに仕事をしている姿が印象的だったという。「日本のように姿勢を正し、細やかな接客をするわけではなく、お客様と一緒に楽しい時間を共有するような様子でした。どちらが優れているというわけではなく、文化の違いというものを身をもって感じました」と感想を述べてくれた。
インタビューの最後には、『2016 ビームサントリー ザ・カクテルアワード』に参加しようとしているバーテンダーの方々にメッセージをいただいたので、以下にご紹介したい。
「オリジナルカクテルというのは、自己満足になってしまってはダメなので、やはり受け手に伝えるという気持ちを大切にしてほしいなと思います。テーマを決めて、作品を作り上げて、それが美味しかったら、全国で飲んでいただけるはずなので。日々お店で美味しく作って出せるようなカクテルを、カクテルアワードでも創作してほしいと思います。そうすることで、バー業界全体の盛り上がりにも繋がると嬉しいですね」。
昨年、日本一の栄光に輝いた窪内さんが語る〝お店で出せるカクテル〟とは、バーテンダーにとっては基本中の基本ではあるものの、ともすれば大会という勝負の行方に囚われてしまって、忘れてしまいがちな要素なのかもしれない。その前提を貫くことで頂点に立った窪内さんの言葉は、今年の参加者にとっても、作品を考える上でのひとつの指針になるのではないだろうか。今年はどのようなオリジナルカクテルが会場を沸かせるのか。作品募集の締め切りは7月31日までとなっている。

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