2017年10月31日
「メーカーズマーク」のバーボン・マルガリータにテーマが移り、そのレシピに初めて挑戦するのは、2013年「サントリー ザ・カクテルアワード」の優勝者、鹿児島県霧島市「BAR 万 (YOROZU)」の吉富万洋さん。本来、テキーラをベースに作られるマルガリータに相対し、吉富さんの考案したカクテルとは…。
チャンピオンの創造力とはかくあるべきか…。
新しいカクテルを考案する際、吉富さんはまずイメージを構築するところからスタートするという。そしてそのイメージに対応するレシピを考え、実際に作り始める。さらに「カクテルアワード」を獲得するようなひと品は、そのイメージから実際のレシピまでがピタリと決まるケースが多いと言う。今回の新レシピもそのひとつだとか。
ご存知の通り「ベース+ホワイトキュラソー+柑橘系ジュース」の組み合わせは、カクテルの王道と思われるほどバリエーションにあふれている。テキーラ・ベースにライム・ジュースを使用した今回のテーマ「マルガリータ」はもちろん、ウオツカをベースにすれば「カミカゼ」に、そのカミカゼのジュースをレモンにすれば「バラライカ」に、そのベースをホワイト・ラムに変えれば「XYZ」、さらにベースをブランデーにすれば「サイドカー」、ジンに変更すれば「ホワイト・レディ」へと変幻自在だ。だが、このコンビネーションにおいて、ベースをウイスキー、特にバーボンとすると、そのレシピもカクテルも一般的とは言い難い。
吉富さんも当初「なぜバーボン・ベースはないのだろうか。それには何か理由があるはずだ」と考え、純粋にマルガリータのレシピでベースに「メーカーズマーク」をすえ、試した。するとマルガリータ特有のグラスの縁に配するソルトが、ドリンクに「勝ちすぎてしまう」点にすぐに気づいた。このコンビネーションにおいて、ウイスキー・ベースのレシピにすると、突出した味覚の特徴を出しにくいからだと考えた。ソルトをハーフにしてみても、あまり大きな差はなかった。
まったくソルト抜きに仕上げるレシピも頭に浮かんだが、ソルト抜きでは「マルガリータ」と呼ぶに値しない。吉富さんは悩んだ。
一方、バーボンである「メーカーズマーク」をベースに使用する上で、カクテルのコンセプトをどう設定すべきかも考えた。すると2013年、アワード受賞時の特典としてニューヨーク、ケンタッキーに渡航、その際、研鑽(けんさん)を積んだアメリカの光景が蘇った。「バーボンと言えばアメリカ。アメリカで映画を観る時は、ポップコーンにコーラが定番」という着想を得た。
そこで閃いた。塩味のポップコーンを、使用するホワイトキュラソーに漬け込み、インフュージョンしてしまうことで、マルガリータの特徴である塩気をレシピに封じ込めることを思いついた。バーボン+ポップコーン、どちらもコーンが原材料ゆえ親和性も高い。それに合わせる「自家製コーラシロップ」を開発。また、ニューヨーク渡航時に印象的だった「ルバーブ・ビターズ」でアクセントを加えることにした。
凝り性な吉富さんは、飲む人に「ニューヨーク、特にブルックリンに行ったつもりになってもらいたい」とプレゼンテーション向けに小さなスーツケースを自作。そのケースの中にはブルックリンをイメージしたパイプを配し、スモークしたポップコーンとともに、カクテルをサーブすることに決めた。パイプの錆具合も自身で塗装、メーカーズマークのキャップとなっているレッドの蝋と同色のバルブまで配する凝りようだ。
こうして創り出されたカクテルは、絶妙なバランスと特徴的な奥行きを持ちつつ、「メーカーズマーク」の特色を活かし、女性にも親しみやすい、サイドカーのメタモルフォーゼのような逸品に仕上がった。
確かにニューヨークでの映画鑑賞時に最適なメーカーズマーク・カクテルだ。名付けて「アメリカン・シネマ・パラダイス・マルガリータ」…いや長い。「アメリカン・シネパラ・マルガリータ」。この一杯が、スタンダードに成長したなら、きっとさらにバーが愉しみになるはずだ。
材料名
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A. メーカーズマーク 30ml
B. 自家製コーラシロップ 15ml
C. ホワイトキュラソー 15ml
D. ライム・ジュース 10ml
E. ルバーブ・ビターズ 1ダッシュ
F. ドライ・ライム スライス1枚
G. 塩味のポップコーン 適量
作り方
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1. GをCに漬け込んでおく
2. 1をスモーク
3. シェイカーにA, B, C, D, E, 氷を入れシェイク
4. カクテル・グラスに3を注ぐ
5. 4に(F)ドライ・ライムを浮かべる
6. 5を2とともにサーブ
住所 | 鹿児島県霧島市国分中央3丁目34-6-1 キャメルビル1F |
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TEL | 0995-55-0004 |
営業時間 | 20:00~03:00 |
定休日 | 不定休 |
週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学などにてジャーナリズム、創作を学ぶ。ベルリッツやCNN本社など勤務後に帰国。『月刊プレイボーイ』、『男の隠れ家』などに寄稿し、BAR評論家に。著書に、女性バーテンダー讃歌『麗しきバーテンダーたち』、ニューヨークのBAR事情も交えたエッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』など。