BAR業態様 限定

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~Bar SAVOY osaka~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

神戸生まれのカクテルに、ドミニカの風を乗せて

大阪府・肥後橋 Bar SAVOY osaka(バー・サヴォイ 大阪)

「サヴォイ」のDNAを大阪に広めたい

 肥後橋(大阪)に"サヴォイ"と冠する店がある。地下鉄肥後橋駅からすぐ、丁度、阪神高速土佐堀ICを降りた前のビルにあるバーだ。"サヴォイ"と聞いて胸が高鳴るのは、神戸っ子の証だろう。「サヴォイ」は神戸ではすでにおなじみのバー。1967年に小林省三さんが創業した店である。

 小林さんといえば、バーテンダーの世界では知らぬものがいないほど有名な人。大阪万博で開かれた世界カクテルコンテストに出場し、見事世界一の栄誉を獲得している。ただ小林さんは2007年に引退し、彼が長年営んでいた「サヴォイ」も閉じてしまった。今は長年、小林さんといっしょに仕事をしていた木村義久さんがそのDNAを受け継ぎ、「サヴォイ北野坂」をやっている。だからそこを小林さんの店だと思っている人も多いのではないだろうか。かくいう私もそのひとり。今回、「サヴォイ大阪」の日名祥泰さんにその成り立ちを聞くまでは誤解していた。

 「サヴォイ」のDNAを引き継いだのは、木村さんの「サヴォイ北野坂」だと書いたが、厳密にいえば「サヴォイオマージュ」と「サヴォイ大阪」もそれにあたる。今回、紹介する「サヴォイ大阪」は、2007年のオープン。かつて小林さんの下で修行をした日名祥泰さんが初めて大阪に「サヴォイ」ブランドを持ち込んだ記念すべき一軒だ。

savoy_b.jpgのサムネール画像
savoy_c.jpg savoy_d.jpg

 東京生まれの日名さんは6歳の時に神戸へ移ってきた。神戸で育ち、「サヴォイ」で働いていたのだから東京生まれといえども神戸っ子の部類に属する。飲食を生業にしたかったのか、すでに高校生の時に居酒屋でアルバイトを始めている。日名さんが進路を決めたのは「TVチャンピオン」で、バーテンダー王選手権を観たこと。そこで作られるカクテルなどバーテンダーの手法を観ていくうちにバーテンダーという仕事の奥深さを知り、卒業後にはその道へ進もうと決めたのだ。神戸の有名校に通っていた日名さんは、先生に進路を相談したところ、バーへの就職という道は学校では分からず、「ホテルなら紹介しますよ」と言われたらしい。しかし、自分がホテルで働くイメージがどうしても描けず、悶々とした日々を過すうちにいつしか卒業式も終わってしまい、学校で唯一の進路不明者になってしまったのだという。

 そんな日名さんに一冊の本が扉を開けてくれる。「アルバイト先の店長がバーブックを貸してくれたんです。そこには『サヴォイ』の小林省三さんが特集されており、小林さんの苦労話や考え方を記事で知るにつけ、『附くならこの人だ』と思ったんですよ」と日名さんは語っている。一流の人に附いてみたい一心で「サヴォイ」に電話をかけ、むりやり面接してもらった。ただ世間を知らなかった日名さんは、面接にも関わらず、短パンにリュック、おまけに金髪という出で立ちで出向いたらしい。しかし、そんな日名さんにも小林さんは「18歳というと、子を預かるようなもの。親の顔を見ないと判断できない」と言いながら対応してくれたそうだ。後日、両親が小林さんと対面し、弟子入りを許可してくれた。こうして日名さんのバーテンダー人生はスタートしている。

 「サヴォイ」に就職したものの、半年ぐらいして神戸を地震が襲った。「サヴォイ」が入っていたビルは倒壊、街は壊滅状態に。そんな状況下で日名さんは明日を見失ってしまった。「1ヵ月後、小林さんに東京へ連れて行ってもらったんです。銀座のバーを紹介され、そこで席を温めていると、なぜだか涙が止まらず、いつのまにか号泣してしまったんです。何の技術もなく、バーテンダーとして独り立ちしていない自分を省みて不安になってしまったんでしょうね」と日名さんは振り返る。

savoy_e.jpg savoy_g.jpg

 そんな当時のことがあったからか、「サヴォイ」に対する思い入れが強く、2007年に独立する時に、「サヴォイ」の名を冠しようと決めたのだという。2004年まで小林さんや木村さんの下で働き、スペインへ放浪の旅に出た。帰国後、スペイン料理の旗手ともいうべき「エルポニエンテ」に勤めている。淀屋橋の「エルポニエンテ・カルボン」で2年働き、独立を果たした。その時、あえて「サヴォイ」の名で店をやりたいと思ったそうだ。小林、木村の両師匠の了解を取り、あえてオフィス街である肥後橋でオーセンティックバーを開いた。そこには「サヴォイ」の名を大阪でも広めたいとの思いもあったはずだ。

 「サヴォイ大阪」は、できて6年目になる。毎日通えるような料金設定で、女性一人でもふらりと立ち寄れるバーを目指しただけに、この数年でその思いがうまく受け入れられ、街に同化した感もある。初めての人でも勇気を持って扉を開けることができるようにと、あえて小窓を設けている。かつて日名青年が初めて「サヴォイ」を訪れた時に、開けるに開けられなかったその扉への不安感をぬぐうかのように、小窓は店内の雰囲気をうまく伝えてくれる。日名青年は「サヴォイ」のステンドグラスから覗いた時に「自分が見たことがない世界がそこには広がっていた」と思ったそうだが、「サヴォイ大阪」の小窓からは何が見えるのだろうか。世間ズレした私が覗いた世界は、ホッとくつろげる街場のバーの雰囲気だったように思う。

師が考案したカクテルを「ブルガル」で作る

savoy_i.jpg savoy_n.jpg savoy_q.jpgのサムネール画像 savoy_y2.jpg

 「サヴォイ大阪」は、カウンター9席とテーブル1つの小ぶりなバーである。空間が小さいからか、余計に和んだ雰囲気がそこにはある。この雰囲気は日名さんの人柄と、そこに集う客が醸し出すものかもしれない。そんな「サヴォイ大阪」のカウンター席に腰掛け、私は日名さんにオススメの一杯を作ってもらうことにした。日名さんが私に供してくれたのは「ソルクバーノ」。ドミニカのラム酒「ブルガルブランコ」をベースにしたカクテルである。

 今ではスタンダードになっているが、実は「ソルクバーノ」は「サヴォイ北野坂」の木村義久さんが考案したもの。1980年代はトロピカルカクテルがブームになった時代。遊びが多様化したこの時代は、もしかすると日本が最も輝いていた頃かもしれない。そんな時代の入り口となった1980年に第1回トロピカルカクテルコンテストで木村さんは「ソルクバーノ」を披露している。そこで初めて作った木村さんのカクテルは、見事第1位に。飲みやすく、ビルド手法で作りやすかったことも手伝って瞬く間に全国のバーへ伝播していった。

 その木村師縁りのカクテルを日名さんは作り始めた。まずゴブレットに氷を入れ、「ブルガルブランコ」を45ml注ぎ入れる。それからグレープフルーツを搾ってジュース(60ml)にし、それを加える。軽くステアしたらトニックウォーター(適量)で軽く満たし、再度軽くステア。そしてデコレーションを添えるのだ。この時のデコレーションはスライスしたグレープフルーツとミントの葉。グレープフルーツでグラスを蓋し、その上にミントの葉や季節の花を飾るのが本来の姿らしい。「ソルクバーノ」はあまりの広がりだったために、今でも全国どこのバーへ行っても出てくるのだが、その成り立ちを知らない人は、ゴブレットではなく、タンブラーで出していたり、グレープフルーツで蓋をしていない場合がある。しかし、木村さんが作ったそれは、前記のように作り、この日、私に作ってくれたスタイルで提供するのが本来の形だそう。

 グレープフルーツの蓋に刺したストローから少しずつ「ソルクバーノ」を飲んでみる。今ではカクテル10傑にも入っているほどだから、この味は私もどこかで飲んだことがあった。でも「サヴォイ」のDNAを引き継いだ「ソルクバーノ」は、他とは違って流石に本格的な味わいがする。

savoy_t.jpg

 日名さんは昨年まで「ソルクバーノ」を作る時、「ブルガル」とは違うラムで作っていたらしい。しかし、某セミナーで「ブルガル」の作り手(製造者)の話を聞いた時に、ぜひともこれを用いようと思ったそうである。「ブルガル」は、カリブ海・西インド諸島にあるドミニカ共和国で造られているラムだ。1888年にD・アンドレス・ブルガルによって創業され、今でも純国産の原料にこだわり続けるラム酒を造っている。カリブ海エリアではNo.1の売り上げを誇るブランドだったが、日本に入ってきたのは昨年の10月23日。以来、軽く飲みやすい味が受けてか、多くのバーテンダーがそれを用い始めている。現に日名さんも「ドライで、フルーツと調和しやすいですね。万人受けする味なので、カクテルに使いやすいんですよ」と評している。「ラムを代えると『ソルクバーノ』も味が変わったと言われませんか?」との私の質問にも「そうですね。少しは変わったでしょうね。でも、『ブルガルブランコ』で作った方が後引きがいいんです。2杯目に続く効果が期待できるんですよ」と言う。

 「ブルガルブランコ」は、ドミニカ産さとうきびを原料にして、2回の蒸留を経て造られている。その原酒を12~16ヶ月ホワイトオーク樽で熟成し、3回の炭素濾過を行って造る。日名さんが言うように確かにスムーズですっきりした飲み口とドライな後味がするラム酒である。柑橘系と合わせやすいから、「ソルクバーノ」にはピッタリであろう。

 日名さんは「ブルガル」の製造者から話を聞くうちに、ラム酒造りへの情熱を感じて店に置くことに決めたようだ。「話を聞くと、ドミニカに行ってみたくなりました。以前、メキシコへ1週間ほど行き、現地のテキーラ工場などを巡ったんですよ。やはり外国へ行くと、その地ならではの飲み方があるんですよね。カンクーンでマルガリータを飲み歩いた際は、同じマルガリータでも一軒一軒が全て違った形で出てきました。ロングカクテルで出している店もあって驚きましたね。そんな光景や味を伝えるのもバーテンダーの役目だと思っているんです」と日名さんは話してくれた。いつの日か、日名さんがドミニカに行ったなら、ひょっとして木村師が考案した「ソルクバーノ」が違った形で出てくるかもしれないと私は考えた。

 「このカクテルを考案した木村さんは、自分でそのレシピを決めておきながら、時にはラムをダブルやトリプルで入れたりすることもあるんですよ。本来ならそうして作ると、バランスが悪いはずなのに、木村さんが作ると不思議と美味しい。『サヴォイ』にいた頃はそれが疑問でした。ようやく今の年齢になってその謎がわかり始めた気がします。カクテルは酒だけのドリンクじゃないですよね。作り手の経験や人柄、場の雰囲気も混ざり合って一杯の完成作品ができあがるんです。私も色んなことを学びながら師匠たちの域まで到達したいですね」。

 こんな話を聞きながら「ソルクバーノ」を飲んでいた。この一杯のカクテルには「サヴォイ」のDNAの他に、日名さんの人柄や「サヴォイ大阪」の雰囲気まで加わり、私の喉と舌を魅了している。このご機嫌な一杯に出合えたことが、今日一日の収穫だったかもしれない。

savoy_v.jpg savoy_x.jpg

● Bar SAVOY osaka(バー・サヴォイ 大阪)

お店情報

住所大阪市西区江戸堀1-1-9 日宝肥後橋ビル1F

TEL06-6445-2077

営業時間17:00~翌1:00

定休日日曜日、祝日の時の月曜日

メニュー
                        
  • ソルクバーノ1050円
  •                     
  • ホットバタードラム945円
  •                     
  • ブルガル18881260円
  •                     
  • ジントニック840円
                        
  • 山崎12年1050円
  •                     
  • マッカラン12年945円
  •                     
  • キューバシガー945円~
  •                     
↓ブルガルの製品情報はこちらから↓
http://bartendersclub.suntory.co.jp/brand/2012/10/index.html
このページの先頭に戻る