曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~Bar 呂仁~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

ハイボールではなく、ハイビームを一杯!

大阪府・守口 Bar 呂仁(バー・ろじん)

噂に聞こえた、バーボンの名店

 守口(大阪)にバーボン界屈指の名店がある。京阪守口市駅を出てすぐの所にある「呂仁」がそれ。このバーは、巽誠一郎さんが営んでおり、1階、2階、3階と、それぞれ趣の違ったフロアが特徴の店だ。巽さんの話では、「呂仁」は2階からスタートしたのだとか。2階といえど、店の裏側には"時空の道"(昔の京街道の名残り)が通っており、そこから出入りできるために、1階店舗と変わらない。

 オープンした1977年当時は、1階に巽さんのお父さんがやっていた鞄屋があった。お父さんが引退してからは、1階部分も改装し、バーにした。「呂仁」を初めて訪れた人は、どこかホッとする気分になるのではないだろうか。かくいう私も初めて行った時に、懐かしさを感じた。かつてこの手のバーが街にはあった。特に神戸で生まれ育った私は、この手のバーでよく時を過したように思う。そのあたりを巽さんに聞くと、「学生時代に神戸のバーにもよく出入りしていた」そうだ。だから神戸の古き良きバーの雰囲気を醸し出しているのかもしれない。

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 飲みに行ったついでに巽さんに個人的な話を聞くことにした。関西大学を卒業した後、巽さんはアメリカ系の企業に就職し、アメリカ、中東、アジアなど色んな所で仕事をしていたそうだ。26歳の時、会社を辞めて中東から帰国してからは、父親の所有するこのビルの2階でジャズ喫茶を始めている。高校生の時になぜか、「いずれここへ戻って来て商売をやるのだろうな」と思っていたらしい。それが現実になったわけだ。帰ってきてバーか、おでん屋をやろうと考えたが、落ち着いた先はジャズ喫茶屋。「中学生の時からジャズが好きだったので、その手の店にした」と話している。そういえば、2階はかつて神戸にあったジャズ喫茶風だ。私が懐かしい気分に浸れるのも不思議ではない。

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 守口といえば、某大手電気メーカーが思い浮かぶ。だから「呂仁」は、その企業に勤めている人がよく来る。オープン当初は守口で洋酒が飲める店が少なく、スナックもあまりない状況だった。だからウイスキー好きが連日、わんさと押し寄せたのだそう。「呂仁」のオープンから3年後には、3階にも店舗を広げている。「その頃は、守口に大バコがなかったから一日にひとつは宴会が入っていました」と巽さんは言う。その手のスペースとして3階は向いていたのだと思われる。

 「呂仁」を始めた頃、巽さんはバーテンダーとしての経験もなく、ひたすら本を読んで、カクテルの作り方を覚えたらしい。「なんとかできたのが、マティーニとギムレット、サイドカーぐらい。それとアイリッシュコーヒーが得意でしたね」と笑いながら話してくれた。本格的なバーにしたのは1985年から。近くに守口プリンスホテル(現アゴーラホテル)が建つ予定があり、そこにバーができそうだと聞きつけたので、「いっそ『呂仁』の1階をバー化してしまおう」と考えたようだ。以来、「呂仁」は守口だけでなく、その名声は、関西一円まで轟くほどになっている。殊に"バーボンの名店"としてその噂は広まっているのだ。

今宵は、バーボンの達人と一杯飲る

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 巽さんの凄いところは、アメリカまで行き、各蒸溜所を巡っていること。いや巡っているバーテンダーは何人もいる。巽さんは蒸留所のオーナーやマスターディスティラーと親交があり、すでに友達関係になっている。そんな巽さんが初めて行ったのが「ジムビーム」の蒸溜所。1984年3月29日に行ったのだという。何の面識もなかった巽さんに対して「ジムビーム」の製品管理担当のトップが1時間半かけてホテルまで迎えに来てくれた。そして蒸留所に案内され、「どこへ入ってもいいから」と言ったそうである。「3月29日は私の誕生日だったのでよく覚えているんです。せっかくそう言ってくれたんだからと、隅から隅まで見ましたよ」。

 当然ながら巽さんは、「ジムビーム」の現在のマスターディスティラーであるフレデリック・ブッカー・ノウ氏ともつきあいがある。かつてフレデリック・ブッカー・ノウ氏が「呂仁」を訪れた時、2階で2時間近く飲んだ。そして色んなことを二人で語り明かした。「アメリカでは、ハイボールは禁酒法時代にできた名称で、今ではあまり使われないそうです。ウイスキーソーダやバーボンソーダって言う方が普通なんでしょうね。日本ではハイボールが再び流行っていると私が言うと、彼は『じゃあジムビームのハイボールは、ハイビームって呼んでくれ』って笑っていましたよ」

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 そんな話が出たところで、「じゃあ、その『ハイビーム』でも作ってもらいましょうか」と注文してみた。すると巽さんは、「フレデリック・ブッカー・ノウ氏がそう呼んでくれと言ったやつですね」と、8オンスのタンブラーを取り出した。「呂仁」では、昔から包丁を使って角氷を作っている。それを小さいのからグラスに入れ、次に大きめのを2~3個、最後に少し小さい氷という順番に入れていく。次に「ジムビーム・ブラックラベル」を40ml注ぎ、3対1の割合になるようにソーダを90mlほど入れる。そしてステアして出すのだ。「ハイボールの場合、一般的にはソーダをそっと注ぎ、そっとステアするんですが、うちは強めにソーダを注ぐんですよ。なぜ、そうなのかって聞かれると、私のクセだからしょうがないとでも言っておきましょう。ただ、この店は1階が15人、2階が18人、3階が30人入るんです。満席になれば、63人ものお客様のお酒を出さなくてはならない。オーダーが一度に沢山入ることもあって、ゆっくり作っていられないです。つまりスタッフは一番忙しい状況でお酒を作ることができるようにしておかねばならないんです」。盛業店ゆえの性(さが)、それが本音なのだろう。

 バーボンに精通している巽さんに「ジムビーム」の印象を聞くと、「ブラックラベルは、当たりは優しく、さくっと飲めるウイスキーですね」。そして続けて「今は6年以上の熟成で、芳醇な香りと厚みのある味が印象的です。以前は8年だったのが、今回は6年に。でも6年になっても8年の頃のしっかりした味が残っています」と言う。「ジムビーム・ブラックラベル」は、34年前に101カ月というのがあったそうだ。当時はタバコをガンガン吸っていた時代なので、濃い味が求められたのだと思う。それが8年になり、今回の6年になった。それでもモルトの12年に匹敵する味だと評する人もいる。ちなみにバーボンは12年寝かせるとしつこいらしい。「ソーダで割っても渋みが残っている」と巽さんは教えてくれた。

 巽さんと酒談議をするのは、実に楽しい。博識ゆえに色んなことを教えてくれる。ヨーロッパでは、バーボンはソーダよりコーラで割る方が多いのだとか。「ソーダで割るよりも甘みのあるもので割る文化なんですよ。ウイスキーは飲みたいが、そのままだとつらいのでコーラで...」。そんな時には、あっさりと飲みやすい「ジムビーム・ホワイトラベル」の方が活躍するのだろう。

 巽さんは昨年を除くと、34年間毎年アメリカへ出かけている。最低、年に2回、多い時は5回も行く。かつては外国へ行っては、酒を仕入れていた。だから日本では目にしないものでも棚に並んでいる。若かりし頃は太宰治とヘミングウェイが好きで、それらを読みあさったという。

特にヘミングウェイは英語を覚えるために原書で読んでいる。「モヒートに出合った時に『あれっ?この酒って中学の時に読んだものの中に出て来たよな』って思ったんです。西宮の学校に通っていて、帰りにはいつも神戸で遊んでました。ローハイドやアカデミー、ハイウェイ、フロインドリーブ、トーアロードデリカテッセンなど色んな所に行きましたね。当時に成田一徹さんとすれちがっていたかもしれませんね。ある意味で、神戸とアメリカには影響を受けています」。成田一徹さんとは、有名な切り絵作家である。バーを切り絵でうまく表現しており、人気があった。「呂仁」も描いており、その作品が1階に飾られている。こう話していくと、私が「呂仁」に神戸のバーを重ねたのがわかる。巽さんによると、お父さんの鞄屋を改装し、バーにした1階スペースは、白い壁の印象が強く、天井が高くて風呂屋みたいだったそう。それを棚を造り、ディスプレイを施すうちに今のようになったそうだ。

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 1階奥にデン!とジュークボックスが据えてある。これは1959年シーバーグ社製のものだ。郡山(奈良)に古いジュークボックスがあると聞いて巽さんはもらいに行った。その時、「あと3台、ボロのジュークボックスがあるから、それも引き取ってくれるなら、あげる」と言われたそうだ。1台を店へ置き、家に2台とガレージに1台置いてあるという。レコードは1975年ぐらいのまでが入っており、バリバリの現役ジュークボックスである。巽さんは計4000枚もレコードを持っている。2階ではそのレコードをかけ、一杯飲るのがいいという。まるで36年前にタイムスリップしたかのようだと話していた。かつて私は大人達が興じるバーの世界に憧れた。そして背伸びしてバーに通ったものである。守口の若い人達は、そんなイメージを「呂仁」に求めているのだろうか。もしそうだとしたら、ちょっと嬉しくもある。

● 呂仁(ろじん)

お店情報

住所大阪府守口市本町1-2-2

TEL06-6997-3200

営業時間17:00~翌2:00

定休日日曜日 ※但し、2階は会員制として18:00~24:00まで営業

メニュー
                        
  • ジムビーム・ブラックラベル800円
  •                     
  • メーカーズマーク1000円
  •                     
  • ノンフリーク1100円
  •                     
  • 山崎12年1600円
  •                     
  • 白州12年1600円
  •                     
  • サイドカー1200円
                        
  • ギムレット1200円
  •                     
  • ダイキリ1200円
  •                     
  • ジントニック900円
  •                     
  • ロングカクテル1200円~
  •                     
  • ショートカクテル1200円~
  •                     
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