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曽我和弘のBAR探訪記「噂のバーと、気になる一杯」 ~SAVOY KITANOZAKA(サヴォイ北野坂)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

あの暑い日を思い起こさせた‟美人"なカクテル

神戸・三宮 SAVOY KITANOZAKA

あの「ソルクバーノ」の生みの親

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「SAVOY(サヴォイ)」というバーは、神戸でカクテルや洋酒を嗜(たしな)む人なら一度は聞いたことがある名前だろう。この店を営んでいた小林省三さんは、大阪万博の際に開かれた世界カクテルコンテストで世界一の栄誉を射止めたほどの人だと聞いている。1967年に自身のバーを開き、長年この世界で貢献していたのだが、年齢的なものなど諸々の要因も重なって2007年に引退し、「サヴォイ」を閉じている。現在は彼の弟子達が神戸に「サヴォイ北野坂」と「サヴォイオマージュ」を、大阪に「サヴォイ大阪」を開き、小林さんが伝えて来た古き良き神戸のバー文化を引き継いでいるのだ。

三軒ある「サヴォイ」の中でも最もDNAを受け継いでいるのが木村義久さんがやっている「SAVOY KITANOZAKA(サヴォイ北野坂)」ではないだろうか。木村さんは、小林さんが「サヴォイ」を立ち上げた時からずっといっしょに働いてきたスタッフで、いわば片腕的存在だった。「サヴォイ」を造る際も木村さんが店の絵を描き、それに基づいて設計したほどである。本来なら阪神淡路大震災(1995年)の年ぐらいに独立していたのだが、未曽有の地震が神戸を襲ったために「サヴォイ」も大打撃を受けてしまった。小林さんが店を再建するのにどうしても木村さんの力が必要と、引き留めたために都合37年間小林さんの片腕となって働くことになった。

木村さんは大学時代に小林さんと知り合ったようだ。「大丸」の洋酒売場で酒と出合い、近くにあった「ルル」のマスターに憧れを抱いたのがバーテンダーになるきっかけ。その頃、小林さんがまだ勤めていたバーに足繁く通い、常連客になっている。少し経ってから小林さんが独立するというので、学校を辞めていっしょに仕事をすることになったらしい。長年、彼の下で働き、50歳を過ぎてから独立したのだが、「サヴォイ」から色んなものを受け継いだことと、かつての店へのオマージュもこめて「サヴォイ北野坂」の名をつけている。「私がこの店を2004年にオープンしてからも小林さんはまだ2~3年間は『サヴォイ』をやっていたんです。だから『サヴォイ』のDNAを受け継いでいることと、師匠の店とを差別化するために独立時にあえて『北野坂』を付けたんですよ。今はその店もなくなったために『北野坂』という文字はいらないのではないかという人もいますが、やはり師匠の店ですからそう安々と名乗れるものではありません」と木村さんは話している。「サヴォイ」がなくなった今、多くの人がこの店を発祥の「サヴォイ」だと誤解しているようだ。木村さんが「サヴォイ」の存在が残ればいいと言っているように誤解もまた悪くはないのかもしれない。要は神戸のバー文化をリードしてきた「サヴォイ」がこの後もずっと語り継がれればいいのだから...。

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こんなことを語っているくらいだから、当然、今日は「サヴォイ」で一杯飲っている。木村さんが「小林さんの店に似せた」と言っているくらいなので、「サヴォイ北野坂」は2004年にオープンしているにしては古くからの趣を残しており、小林さんの店のことを聞かなければ、そこが「サヴォイ」と誤解してしまいそうだ。長いカウンターと、奥のボックス席、それに神戸らしさ(!?)を象徴するようなスウェーデン製の暖炉(神戸の名店「YANAGASE」に暖炉があるために、私はそれがあれば神戸らしいバーの絵づらと思ってしまうようだ)があって、どこかほっこりさせてくれる。聞けば全て無垢材らしく、その伝統的な造りが2004年よりずっと前からあるようなイメージを植えつけさせているのかもしれない。

「サヴォイ」の継承もさることながら木村さんは、今や定番になったカクテル「ソルクバーノ」の考案者としても知られている。「ソルクバーノ」は木村さんが1980年に創作したものだが、ラム、グレープフルーツ、トニックウォーターというシンプルで作りやすいスタイルから今では「困った時のソルクバーノ」と言われるまでになっている。木村さんは1980年にどうやら時流を読んで創作したようだ。当時、グレープフルーツは1ドル(当時のレートで290~300円ほど)ぐらいで売られていた。この頃はグレープフルーツの食べ方といえば、半分に切り、砂糖を載せ、スプーンで実を掬いながら味わうというものであった。グレープフルーツは柑橘系なのになぜグレープというかといえば、葡萄のように果実が沢山実るからである。そのくらい生産量があるものならもっと安くなり、普及していくと考え、木村さんはカクテルにそれを用いたのだとか。当時、1ドルが290~300円していたのだが、今もグレープフルーツは1ドルぐらいで流通している。但し今は1ドルが100円ぐらい。木村さんの目論見は見事当たったことになる。「ソルクバーノ」は、木村さんの想像を遥かに超えて、全国津々浦々まで広まった。今や札幌でも那覇のバーでもそれが飲める。もはや押しも押されもせぬスタンダードカクテルなのだ。

フィリピンの美人に想いを馳せて作った

この話の流れからいうと、私は「ソルクバーノ」を飲むべきなのだろうが、この日は木村さんが別のオリジナルカクテルを作ってくれるという。その名も「愛(いと)しのマルー」。これは今から30年前に木村さんがフィリピンを訪れたことに起因してできたものである。小林さんの奥さんから「色んな経験をした方がいい」とアドバイスされ、某人の秘書のような形でフィリピンを訪れた。その時に現地の案内役を買って出てくれたのが美人通訳のマルー・コルテスさん。スペインとフィリピンの混血で、木村さんによればアグネス・ラム似の美人だったらしい。木村さんはそのマルー・コルテスさんの華やかさが印象的だったようで、帰国後、彼女を題材にしてカクテルを作っている。それが「愛しのマルー」なのだ。

このショートカクテルは、まずグラスのリムをスノースタイルにすることから始まる。スノースタイルといえば、塩が一般的だが、これはグラニュー糖をつける。塩だと「ルジェ」の甘さがしつこく感じるそうで、あえて砂糖を用いることで控えめな甘さにしているそうだ。次にシェイカーにレモンジュース10mlを注ぎ、「ルジェ ピーチ」10mlと、「ルジェ カシス」15ml、「サウザ(シルバー)」を35ml加えたら氷を入れてシェイクする。そしてそれを先程のグラスに注ぐと、「愛しのマルー」が完成する。

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木村さんがフィリピンに行った時は、マルコス政権の時代、暑~い頃でブーゲンビリアなどの花が咲き乱れていた。そんな夏の花々と美人のマルーさんを重ね合わせたのだろう、このカクテルには夏っぽいイメージと華やかな感じがうまくフィットしている。「当時はジンとベルモット、『ルジェ カシス』を使って作る『パリジャン』をよく作っていたんですよ。それを応用して出来たのが、この『愛しのマルー』。テキーラベースの一杯ですが、カシスの色がうまく出ているでしょ」と木村さんは説明してくれた。木村さんによると「ルジェ ピーチ」は香りづけのために用いたのだそう。「カシスを強調するのにほんの少しだけ入れるといきる」と話していた。

前述したようにベースは、「サウザ(シルバー)」である。このテキーラは他のものより軽くて使いやすく、頭を持ち上げない(主張しにくい)特徴がある。木村さんは「脇役がいきてくる酒」と評し、クセの強いテキーラではなく、色んなニュアンスを和らげるには「サウザ」が適していると語っている。「用いるにはゴールドではなく、シルバーの方がいいのですか?」との問いにも「透明度がある分、使いやすいのです」と教えてくれた。

一方、「ルジェ カシス」は、カシスの持つ甘酸っぱさをうまく表現したリキュールと言い、仮に冷凍のカシスを用いるとここまでうまくはできないと評価している。この二つに「ルジェ ピーチ」を少し加えて‟美人"のカクテルができている。レモンジュースの酸味が加わりながらも「ルジェ」の甘さがいきた一杯で、確かにリムの砂糖があるために塩ほど甘さを強調しにくくなっている。見事なまでの調和に甘心(納得するの意)しながらも会ったこともないマルー・コルテスさんに私も想いを馳せてみた。

木村さんは、カクテルを創作する時、まず酒を選び、それが造られている土地のイメージを加えながらベースの酒に合うものを集めてくるという。つまり、テキーラに合うもの、この指止まれという具合いにである。名前は酒ができてからつけるそうだが、「愛しのマルー」の場合は彼女のイメージありきなので少し創作の仕方は違ったのもしれない。

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あまりバーに行ったことがないという人は、よくカクテル名がわからないので注文しにくいと言う。私が考えるに、名前なんて知らずともイメージを伝えれば、合ったものが出てくるので、そんな見栄なんて張る必要もないと思うのだ。「サヴォイ北野坂」も当然、メニューがない。木村さんも「わからなければ、飲みたいものの要素だけ与えてくれれば、こちらで考えるのですが...」と言っている。例えば、強い酒がいいのか、弱い酒を好むのか?ショートorロングで、甘いか、甘くないか。また炭酸が入っているものがいいのかどうかなど...。そして「加えてベースになる酒があれば、それを教えてもらえればいい」とのこと。木村さんを始め、バーテンダーの頭の中には、あらゆるレシピが入っているためにそれだけの情報を与えてさえくれれば、きっと嗜好に合うカクテルを提供してくれるだろう。先日、北新地にあるバーで、女性バーテンダーにその時の嗜好を伝えたら「ソルクバーノ」が出てきた。やはり私は頭の中でもその手のカクテルを欲しているということなのだろうか。

「ソルクバーノ」についてこんなエピソードがある。木村さんが知人と横浜のバーを訪れた折りに、メニューにあった「ソルクバーノ」を注文した。その時、横浜の某店のバーテンダーは「これほどスタンダードになってしまったカクテルを考えた人は、もう他界してしまっているでしょうね」と言ったそうだ。彼はそれほど古くからあるのだからスタンダードになっているのだと言いたかったのだろうが、流石に死人にされてはたまらないと、周りが木村さんを紹介したそうだ。木村さんが名刺を出した際には、あまりの意外さに周囲からどん引きされたと話していた。「ソルクバーノ」は、1980年にこの世に誕生している。そして今日初めて飲んだ「愛しのマルー」もそれに近い年に創作したのだという。1980年代は、木村さんがバーテンダーとして脂が乗っていた頃だったのだろうか。「ソルクバーノ」と「愛しのマルー」、二つのカクテルを対比しつつ、その時代を振り返ってみる。カクテルには、そんな面白さも秘められている。

SAVOY KITANOZAKA(サヴォイ北野坂)

お店情報

住所神戸市中央区中山手通1-7-20 第3天成ビル4F

TEL078-331-8977

営業時間17:00~24:00(日祝日は~22:00)

定休日無休

メニュー
  • 愛しのマルー1000円
  • ソルクバーノ1200円
  • マルガリータ1000円
  • マンハッタン1200円
  • ギムレット1000円
  • 白州12年1200円
  • 白州18年3500円
  • マッカラン12年1200円
  • ラフロイグ10年1000円
料金は全て税別。チャージはありません。
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