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曽我和弘のBAR探訪記「噂のバーと、気になる一杯」 ~BAR Le Salon(バー・ル・サロン)~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

柿の甘みと旨みを引き立てるためには...

神戸・北野町 BAR Le Salon

美しいものは、常に正しい

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「バーテンダーとは、自分を律して突き進む仕事。多弁ではなく、さりとて寡黙ではいけない」。自分の仕事をこう表現する人がいる。言葉の取りようによっては、哲学的にも聞こえるが、インタビューを繰り返しながら記事にしていく私のような人間にとっては、実に面白い響きとして耳に入ってくる。初めて店に行った時、「バー・ル・サロン」の吉成幸男さんは、こんな風に語りかけてくれた。

吉成さんは、中学生の時に将来はバーテンダーになろうと、すでに決めていたそうだ。ドラマか映画かで見たバーテンダーの世界観が印象深く残り、いつかはその道へと歩みを進めたいと思っていたらしい。吉成さんは、大学を卒業するや否や酒の世界に入ったわけではなく、いったん会社員になっている。将来、バーを開くとしたら大半の客がビジネスマンになるだろうから、まずは彼らの世界に身を置いてサラリーマンの気持ちを確かめてからでも遅くはないと思ったからだ。会社勤めをしながら友人の立ち上げたカフェを手伝い、食の世界も体験した。そして満を持して「バー・ル・サロン」を開いたのである。吉成さんは「決して酒が好きで始めたのではない」と話している。凛とした美意識の塊のような世界に身を置きたくてバーテンダーになったのである。吉成さんの頭の中には、美しいものが正しいとの論理が宿っている。カクテルはまずイメージを先行させて創作する。その描いた絵が常に美しくあるようにと考える。そして美味しいものは、美しいのだとの結論に達しながらも、それを作る工程(所作)も美しくなければと努力するそうだ。「伝統文化や匠の技といったものは、歴史の中から生まれたもの。不必要なものを削ぎ落とした結果の究極形なのです。必要なものだけが残っており、それらはどこから見ても美しく見えるんじゃないでしょうか」と話していた。

神戸・北野町にある「バー・ル・サロン」は、その名からもわかるようにサロンイメージの洒落た空間を有している。長いカウンターがあり、その後ろには最大10名が座ることができるボックス席がある。ハンター坂に面したビルの2階に位置するこの店は、今でも小さな看板が掲げられているだけ。1階のインド料理店が目につくために、その2階にこんな素敵なスペースが展開しているとは思わない。階段横に「BAR Le Salon」と書かれているだけで、あまり主張をしていないのだ。それでも吉成さんは、「以前はもっとわかりづらかった」と言う。オープン当初は、看板もなく、2階にバーがあることすらわからなかったそうだ。「知人にも何も告げず、いきなりこの店を始めたんですよ。いつか誰かが2階に何があるのだろうと思い、すっと入ってきて、そこからサロンがスタートする。そんな風に思ってオープンしたんです」。ところが、吉成さんの思いは裏切られ、何日も何日もお客様が全くいない状態が続く。1カ月経ち、本当に潰れてしまうかもと思った瞬間、一人の男性が扉を開けた。本来なら「いらっしゃいませ」と迎えるべきなのだが、思わず吉成さんは「なぜここがわかったんですか」と聞いてしまった。すると、男性客は「何かがあると思ったんです」と答えたらしい。そして帰り際に「最高の隠れ家を見つけた」と印象を語ってくれたという。その後、口コミでちらほら客が来るようになったものの、流行るまでは程遠い。それを見かねた常連客が「教会になぜ鐘があるのかわかるか」と言って来た。そして間髪入れずに「それはここに教会があるのだと知らせるためなんだ。あなたの思いはわかるが、看板を出した方がいい」と諭してくれた。優しい口調だったが、アドバイスしてくれた時の目がきつく、この人は親身になって言ってくれているのだなと吉成さんは感じたらしい。それ以降、「BAR Le Salon」の名がビルに掲げられた。でも大きくではなく、慎ましやかに。これが吉成さんの美的センスの中で譲れる範囲だったのだろう。

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未完のステラートに続編があった(!?)

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そんな「バー・ル・サロン」で私は、柿を使ったカクテルを飲んでいる。この店は吉成さんの技術の高さが売りのひとつでもある。だから9割はカクテルを注文する。「人柄で醸成されるだけで、その店へ行く人は少ない。きちんと旨いものを作るからこそ訪れる」というのが彼の論理なので、当然リピーターからもその技術が高く評せられており、彼らはその時々に応じた面白いカクテルに出合えると考えて通って来る。吉成さんはレシピを残さない主義である。「たとえ残したとて無意味で、その時の嗜好が大事」と話している。だから、今日美味しくても次にそのまま同じものができあがるとは限らない。それが即興で作るいいところでもあり、いつでもイメージして嗜好に合わせられる技術の高さなのであろう。

私は吉成さんに「アマレットを使って」と注文した。秋ということもあり、吉成さんは柿を取り出し、ブランデーと「ディサローノ・アマレット」を前に置き、「これで作りましょうか」と創作し始めた。ご存知だと思うが、「ディサローノ」とは、あんずの種を原料に造ったリキュールである。アーモンドのような香りを有すため、それが入っているように思うが、実は杏仁がそのもと。アマレットとはイタリア語で少し苦いものの意味で、ミラノにアマレッティなるお菓子があり、この香りに似ているからそう呼ばれるようになった。「ディサローノ」は、1525年に誕生したアマレットの元祖。以前はアマレットと称していたが、類似品が増えたために「ディサローノ・アマレット」と呼ぶようになっている。

吉成さんは、まずブレンダーにブランデーを40ml、「ディサローノ」を15ml注ぎ入れ、そこにレモンジュース1ダッシュと、細かくカットした柿3/4個分を加えて、回し始めた。なめらかになるまでブレンダーにかけたら、それをグラスに注ぎ、あられ適量を散らし、濃いめに溶いた抹茶を少し垂らして、穂紫蘇を飾る。ねっとりした飲み口ながらも、あられのカリッとした食感が加わり、対照的なものが口内で融合する。柿もアマレットも甘いが、そこに抹茶の苦みが加わることで、調和が取れるように設計されているのだ。グラスから少し出て来にくいので、スプーンで掻き出すように口に入れていくと、柿の味がし、アマレットの甘さ、抹茶の苦み、それにブランデーのコクが加わっているのがわかる。

「ディサローノは個性が強いリキュールで、甘みも強い。だから0.5ml単位で制御しながら味を確かめていかないと、この味にならないんですよ」。その反面、プラスの要素も多く、カクテル自体の奥行きや味の複雑さを表現するには持って来いなのだとか。そして香りも高められるし、モノ自体にエネルギーがあるとも語っていた。

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ただ、主役ではなく、何かを引き立てる役割として使いたかったそうで、それで主役を探していたところ、秋だというので柿を使おうと思ったようだ。吉成さんは、極力砂糖を用いないようにしている。自然の甘さでないものは、舌にまとわりついてしまうと考えるからだ。トニックウォーターも市販のものではなく、自分で作る。だからスタンダードカクテルでも他店とは少し違うと言っていた。カウンターの後ろには、ズラリとウイスキーが並んでおり、自身も「バランタイン17年」が好きで、誰よりも沢山飲んで来たと言っている。それなのにフルーツを使ったカクテルがよく出るのは、ここでしか飲めない一杯を求めているからだろう。強いていえば、リキュールもあまり使わず、自然の甘さや旨みで勝負したいと考えているようだ。それでもアマレットのようにカクテルに補強するためや他の素材を持ち上げる意味で使用するリキュールは必要だそうだ。私が「アマレットを使って」と注文したから「ディサローノ」を15ml入れたが、そうでなかったら5mlぐらいだったかもしれないと説明していた。5mlぐらいの方が柿の味を高められるかもしれないというのが本意で、互いの良さが掛け算になる、なのでその掛け数も少ない方が柿の味がいきてくるからだそうだ。

今回、私が飲んだカクテルは1700円だったが、これが正式な価格ではなく、その時々で変わる可能性を秘めている。なぜなら即興の作品なので、その時々によって用いる材料や作る手法も変わるからだ。吉成さん曰く、正解は自分の中にあり、主観こそが正解であるのだそう。「昔は、私の作品を味わうのがお客様だという考え方を持っていて、私自身は技術追求するあまり、作ることだけに主眼を置いていた嫌いがありました。35歳を過ぎたあたりで、正すべきところは正さなければいけないという思いになり、人間をより好きになりました。だから今は、味わってくださるお客様のために精進しなければ、と考えてカウンターに立っているんです」と話す。

さて、この即興で作ってもらったカクテルだが、このコラムに載せるためには題名がほしい。そう思って聞いてみた。すると吉成さんは「ステラート・ザ・セカンド」と命名した。「バー・ル・サロン」に通う常連で「ステラート」なる架空のカクテルを飲んでみたいと思い続けている人がいるそうだ。だが、その「ステラート」は未完で、吉成さんもその人のイメージにフィットしたものが作れていないと言う。だからこれは‟セカンド"とつけた。「ステラート」にはなれないが、続編ぐらいにはなったかと思ったのかもしれない。自然が醸してくれた甘みを口内で確かめながら、私もその人が想像する「ステラート」に思いを馳せてみた。「ステラート」にはなれないけれど、この秋の一瞬を封じ込めた味がそこにあった。

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BAR Le Salon(バー・ル・サロン)

お店情報

住所神戸市中央区中山手通2-14-13ハンタービル2F

TEL078-271-0066

営業時間月~土 19:00~翌2:00、日祝 19:00~24:00

定休日不定休

メニュー
  • フルーツを使ったカクテル1300円~
  • ジントニック1500円
  • ダイキリ1400円
  • バランタイン17年のハイボール2000円
  • 山崎12年2000円
  • 響17年2800円
  • マッカラン12年1500円
※価格は全て税別です
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