曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」 ~大阪新阪急ホテル バー 「リード」~

曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

ボタニカルな特性と三つの柑橘類の融合

大阪・梅田 大阪新阪急ホテル バー 「リード」

カクテルとは、バーテンダーと客の駆け引きである

キタのランドマークともいうべき「大阪新阪急ホテル」。関西人にとっては、このホテルで待ち合わせをすることが多く、誰もがホテル名を告げるだけで場所がわかるくらい有名である。なのでこのホテル内の料飲施設もすでにおなじみ。どの店も一度は入ったことがある人が多いのではないだろうか。同ホテルの利点は、場所の良さにある。阪急梅田駅やJR大阪駅と直結しており、地下街を通ればスムーズにホテルと行き来できる。

「大阪新阪急ホテル」の地下フロアには、バイキングの「オリンピア」や鉄板焼の「ロイン」など名だたる店があるのだが、使い勝手が良く、よく立ち寄るのがバー「リード」だ。この店は早めの夕方から深夜(翌1時)までやっており、待ち合わせで一杯飲ったり、帰りに足らずの酒を飲んだりするのに便利。何せすぐそこが駅なので、いつでも駅へ直行できる。それにどこかで食事をしてもう一杯飲み足りないと思ったら立ち寄ることも可能なのだ。

ある暑い夏の日、神戸への帰路につくことにした私は、すっと帰る気にならず、「リード」で一杯だけ飲むことにした。同店はホテルバーだけにゆったりとした造りで、いかにも涼し気な中で一杯飲れる(夏の話なのでこうあえて表記している)。店内はカウンター席と、ズラリと連なったボックス席が壮観。店の両端には二つの個室(36名収容と12名収容)があり、マネージャーの徐忠弘さんによると、ホテルでの宴会の二次会に利用する人が多いそうだ。場所柄、便利なのだろう、8~10名ぐらいが30分前に空いているかどうかの確認を入れてきて個室を押さえることもあるらしい。

本日の私は、ひとりの身。まだ早い時間ながら一杯飲ろうとしているのでカウンター席に掛けている。私の前には「リード」のチーフバーテンダーである豊田晃規さんが立っている。豊田さんは「阪急インターナショナルホテル」のメインバーからここへ移って来て半年ぐらい。以前のホテルと「大阪新阪急ホテル」とでは価格も層も違うことから慣れぬことが多く、ようやく「リード」の色に染まってきたと話していた。もともと豊田さんは梅田界隈のバーで仕事を始めている。街場の店でバーテンダーとしての修業をし、ホテルへと移ったのだ。「街場とホテルでは、お客様との距離感が異なるため、初めは戸惑いました」と言っているが、すでに何年もホテルバーで働いているため、今ではどこからどう見ても歴としたホテルバーテンダーの顔になっている。

少しここだけの話をしよう。豊田さんは色んなカクテルを作るが、ギムレットには少々思い入れがある。自身もこのシンプルなカクテルに魅了されているそうだが、話はそっちではない。バーの顧客でギムレットを必ず注文する人がいるそうだ。その人から頼まれてギムレットを作った。しかし、その顧客は自分なりのイメージを持っているようで納得してくれない。それでも飲んでくれたが、やはり次もギムレットをと注文する。ダメ出しが出る度にどのあたりがイメージと合わないのかと尋ねるが、氏はざっくりとしか表現しない。豊田さんはそのイメージに少しでも応えようと、ついに10杯もギムレットを作ったそうだ。「ちょっと違うと言いながら少しずつ言葉が減っていくんです。イメージに近づいて来たのかと思いつつひたすらギムレットを作りました」と話している。

料理もカクテルも同じだが、シンプルなものの方が難しい。ジンとライム、シロップで作るギムレットは、酸味と甘みのバランスによってが微妙な味の違いがでる。同じレシピのようでも作り手が変わると、細かな点に変化が生じる。先のエピソードは豊田さんのギムレットがダメだったわけでなく、その人個人のイメージと少しのずれがあっただけだ。豊田さんは「他のお客様でギムレット以外のカクテルでも同じようなエピソードがあるんですよ」と笑うが、彼がそれだけ親しみやすいバーテンダーで、注文すれば具現化できる技術を持っている証拠であろう。それくらい彼の腕は確かである。その証しにその顧客はいつも来て、今でも「ギムレットを作って」と豊田さんに注文する。

「ビーフィーター24」の特性をいかした柑橘系カクテル

ところで私は「リード」で何を飲むかといえば、「ビーフィーター24」を用いたカクテル「トリプル・シトラス・ジントニック」である。「ビーフィーター」は、ロンドン生まれのドライジンで、1820年に若き薬剤師ジェームス・バローによって造られている。伝統のレシピは門外不出、現在はデスモンド・ペイン(マスターディスティラー)がそれを受け継いでいる。ロンドン塔を守る近衛兵の絵で知られるこのジンは、スタンダードともう一つ「ビーフィーター24」が人気を博している。このジンは、日本の煎茶、中国緑茶、グレープフルーツを加えた計12種のボタニカル類が使われており、24時間の浸漬後に蒸溜するという製法上の特性を持っている。ボタニカル類(草根木皮)を用いることでフレッシュで優しい味わいとなり、それが評判となった。

「リード」では、5月1日から8月31日まで「ビーフィーター24」のフェアを開催している。この間は同店で「ビーフィーター24」を使用したカクテル3種類を提供しているのだ。期間中はメニューにも表記されているのでわかりやすい。ちなみに同フェアでは、「トリプル・シトラス・ジントニック」「24マティーニ」「24トニック」(全て1200円)の三つをカクテルの代表例に挙げている。私はこの中から自分の嗜好を考え、柑橘系を使ったカクテルを指定した。

「トリプル・シトラス・ジントニック」はその名からもわかるように三つの柑橘が使われている。レモン、ライム、オレンジがその三つで、夏にぴったりの爽やかなイメージを醸している。

注文すると豊田さんは、グラスに氷を2個入れ、その上にレモンスライスを加えた。次に氷をもう一つ入れて、今度はライムスライスとオレンジスライスを1枚ずつ、さらにその上から氷を載せて「ビーフィーター24」を30ml注ぎ入れる。トニックはフルアップで。多分90mlぐらい入れたのではないだろうか。そして軽くステアしたら出来上がる。

このカクテルのポイントは、氷で層を作り、その間に柑橘類を挟んでいること。豊田さんによれば、「こうすることで香りの伝わり方が変わってくる」そうだ。「トリプル・シトラス・ジントニック」は想像通りさっぱりした味わい。このジンがボタニカル類(草根木皮)を使用しているという特性がよく活かされている。ジン自体が持つフレッシュで優しい味わいを、三つの柑橘を加えることで、さらに飲みやすくしている。

「ビーフィーター24は、45度と強いジンですが、他のものより使いやすいですね。殊にジントニックやマティーニにはよく合うので、うちでもフェアの中にそれらをラインナップさせているんですよ」と豊田さん。彼の話では、他のジンで作ると、もっとドライ感が出るそうだ。逆に「ビーフィーター24」は、クリアな感じがあって、そこまでドライではないと言う。なので女性が頼むことが多々あるのだとか。飲んだ側も「さっぱりして飲みやすい」と上々の評判。「だからお代わりが出るんですよ」と話していた。

この店が今回「ビーフィーター24」のフェアをやるようになったのは、せっかくいいジンが出たのだからバー発信で広めていきたいとの思いも重なってのこと。そういえば、「大阪新阪急ホテル」営業企画担当の筒井愛美さんも「シーズンごとにカクテルのフェアをやっているんです」と話していた。以前行ったミルキーフェアは牛乳を用いたもので「カクテル初心者のとっかかりになれば」と企画したという。現在は、「ビーフィーター24」や「ブルガル」がその対象商品になっている。これらの特性を活かして豊田さんらバーテンダーが個性的なカクテルを作っているのだ。

「大阪新阪急ホテル」は、創業して52年目を迎える。バー「リード」も来年40年を迎える老舗なのだが、それでも「こんなバーがあったのか」と入ってくる人もいるようだ。「酒離れが指摘されている若い世代ですが、ホテルのバーは入門編で使う人もいるので、バー文化を認知させる役目をも持ち合わせているんですよ。色んなフェアを行いながらカクテルをもっと普及させねばと努めています」と豊田さんは言う。「ところでこのジンは、フレッシュでジントニックやマティーニに合うのはわかりましたが、他はどんなものがオススメですか?」と聞いてみた。すかさず豊田さんは「ギムレットが合いますね」と返して来た。やっぱりここは、先のエピソードのようにギムレットを頼まねばなるまい。そう思って少し残っていたカクテルを飲み干した。

大阪新阪急ホテル バー 「リード」

お店情報

住所大阪市北区芝田1-1-35 大阪新阪急ホテルB1

TEL06-6372-5101(代表)

営業時間16:00~翌1:00(日・祝日は~24:00)

定休日無休

メニュー
  • トリプル・シトラス・ジントニック1200円
  • 24マティーニ1200円
  • 24トニック1200円
  • ギムレット1090円
  • マルガリータ1140円
  • オールドファッション1550円
  • ミントジュレップ1440円
  • 白州12年2060円
  • リザーブ1140円
  • ローヤル1310円
  • ジムビームブラックラベル1310円
  • メーカーズマークレッドトップ1310円
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