2016年08月26日
曽我和弘のBAR探訪記 「噂のバーと、気になる一杯」
酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。
大阪・靱本町 Bar TSUBAME(バー・ツバメ)
靱公園の南側、本町通から一本入った所に「Bar TSUBAME(バー・ツバメ)」なる店がある。この界隈では飲食店はあってもバーは珍しく、なかなか目立つ存在だ。オフィス街で有名な本町(大阪)でも、この辺りまで来るとマンションが多く、ビジネスマンから周辺住民まで幅広く取り込んでいると推測される。このバーを営むのは金子歩さん。新潟は燕市の出身で、独立する時に出身地の事を思い、「ツバメ」と名づけている。
金子さんとは、以前からの知り合いである。バーテンダーの世界で名を馳せる早川惠一さんの弟子で、長年、「Bar Leigh(バー・リー)北新地」で勤めていた。本人に聞くと、初めは早川さんのことを知らずに入ったらしい。燕から大阪に出てきて大学へ通い、アルバイトをしている中で、早川さんがスタッフを探していると聞いて面接を受けた。なので入ってから早川師が凄い人だとわかったと話していた。
名人・早川師のもとで修業し、そろそろ独立をしようと考えた時に北新地からそんなに離れていない所を探していたら、たまたまこの物件が目についたと言う。「ここは靱公園がそばにあるためか、繁華街のバーとは趣が違います。オフィス街でもあり、住宅もある。街中でも異質な所なのかもしれません」と金子さんは分析している。
だからバー初心者も訪れる。地下店舗で、彼らは階段を降りて入って来ると、意外にも空間が広がっていて安心するのだとか。金子さんは、このバーの中に靱公園の緑をイメージさせようとしているのか、植栽を置き、木のぬくもりを伝えている。天井までは2m20cmと少し低め、なのに空間を贅沢に取っているから窮屈さは感じない。カウンターが7席、ソファ6席、丸テーブル4席の陣容にうまく植栽と空間を使っており、まさに寛げるのだ。某客からは、「ツバメの巣をイメージした?」と聞かれたそうだが、いい意味でのそれになっているのだろう。
「Bar TSUBAME(バー・ツバメ)」は、オープンして1年半が経つ。金子さんが独立したことを、某鉄道関係者で友人でもある西村保弘さんから聞いてはいたのだが、なかなか行く機会がなく、今になってしまった。バーとはシンプルなもので、バーテンダーの色が出る。「Bar Leigh(バー・リー)北新地」で金子さんの作るカクテルを飲んできただけに私はその力量を知っている。きっと良い店になっているのだろうと思ってはいたのだが、想像以上と言ったら失礼かもしれないが、私好みの空間だったのだ。だから西村さんは「一度行って」と促していたと思われる。
金子さんは燕出身と書いた。いつかは地元に戻って店をと思ってはいたが、長年大阪で暮らし、修業していくうちに、やはり独立するなら大阪で、しかも慣れ親しんだ北新地から離れすぎるのもどうかと候補地を福島や肥後橋、本町と絞った。でも燕への想いも捨て切れず、店名にその町の名をつけると同時に、新潟にまつわるものを置くようにした。それが越乃黄金豚で作ったソーセージだったり、ローストポークだったり、佐渡牛のビーフシチューだったりと新潟縁の素材で調理したもの。黒板には"新潟の「うんめもん」(旨いもの)で作りました"と書いてフード(つまみ類)を載せている。
「先日、新潟県のアンテナショップで見つけたんですが、いろり燻し大根漬けというのがありまして_。秋田のいぶりがっこは有名ですが、あれは沢庵を燻しているでしょ。こちらは燻した大根を沢庵にしているから瑞々しさがあるんです」と言いながら新潟ならではの食を出してもらった。爆発的なスモーキーさはないが、フレッシュ感があり、ハイボールに合う。そこで私は、スモーキーなウイスキーを注文して、それをアテに一杯飲ることにしたのだ。
金子さんが私に薦めてくれたのは「アードモア レガシー」。同酒はスコットランド・アバディーンシャー州ケネスモント近郊のアードモア蒸溜所で造られたシングルモルトウイスキー。アイラとは異なるスモーキーモルトで、ドライで爽やかなスモーキーフレーバーが特徴の一つ。ちなみにこれは製麦に用いられるピート(泥炭)から来ていると聞く。
金子さんは、このスモーキーなウイスキーをハイボールで薦めていると言っていた。ソーダで割ると、スモーキーな香りは薄れるが、ウイスキーがより優しく伝わるのがいいとの話であった。
金子さんは、薄手のグラスに大きめの角氷を入れ、ステアしてなじませてから「アードモア レガシー」40mlを注ぎ、「サントリー ザ・プレミアムソーダ」120mlで割る。ハイボールなのであまりステアせず、さっと差し込む程度で混ざり合うようにして出すのだ。「アードモア レガシー」のハイボールは、キラキラ輝き、いかにも爽快さを醸しているよう。乾いた喉に流し込むと、鼻に抜けるスモーキーさがあり、続いて口内をドライで爽やかな味が巡っていく。「ラフロイグ」や「ボウモア」のような強さもなく、ほのかなスモーキーさがこれまたいい。つまみは先の燻し大根漬け。二重のスモークが口の中でマッチしていくようだ。
金子さんに聞くと「Bar TSUBAME(バー・ツバメ)」では、「アードモア レガシー」を飲む人が多いらしい。それはバー業態が少ない靱本町に起因していると思われる。「ここはバー初心者の方も多く来られます。そういったお客様は何を飲んだらいいかわからず、私に尋ねてくるのです。本来なら華やかなものから入って徐々に個性的なものへと移るんでしょうが、時折り私は『スモーキーなウイスキーはいかがですか』と振ることがあるんです。すると、飲むものでスモーキーというのが想像できず、興味津々で注文してくださいます」。多分、食べ物だと燻製を頭に描くのだろうが、ウイスキーではイメージがわかないのだろう。そんな方にいきなり「ラフロイグ」は強すぎるので、金子さんは「アードモア レガシー」をハイボールにして提供すると言う。
「これは『ラフロイグ』や『ボウモア』より軽いから初心者の方にはいいんです。海草を含み、潮風の影響を有すアイラとは違って、スモーキーさの源は製麦に使用されるピートです。バニラや蜂蜜の香りと、繊細なスモーク香を持ち、濃厚な甘みやフルーティさも感じられます。『ラフロイグ』を飲み慣れた人には優しすぎると感じるかもしれませんが、入門編にはきっといいと思いますよ」。ハイボールだと特徴的なスモーク香が閉じ込もって感じにくくなる嫌いがあるので、金子さんはレモンピールを振りかける。すると柑橘系の香りが加わり、飲むとスモーキーさが際立つのである。「スモーキーなのにすっきりしたものが飲みたい。しかもちょっとクセのあるものが欲しい。そんな人にはピッタリでしょう。価格もリーズナブルだから余計に求めやすいでしょうね」と金子さんは解説してくれた。聞くと、この店では900円、手頃感のあるハイボールである。
「Bar TSUBAME(バー・ツバメ)」ではウイスキーがよく出るそうだが、カクテル名人の早川さんの弟子だけにカクテルも相当なもの。男性客が多いとはいうものの、女性同士や女性の一人客もやって来る。「やはり女性はフルーティーなものを好まれる方が多いです。そんな方にはカクテルが出るんですよ」。この店の棚にはズラリとウイスキーのボトルが並んでいる。なのでウイスキーのイメージを強く持つかもしれないが、金子さんはこれまでに色々なカクテルコンペに出ては、優秀なものを世に出してきた経緯がある。だから私も「アードモア レガシー」を飲んだ後は、カクテルにしようと考えていた。すると、「カネマラ」のボトルが目に留まった。「今日はスモーキーなものでまとめてみるか」、そう思いながらアイリッシュ唯一のピーテッド・シングルモルトの味を頭の中に描いた。
住所大阪市西区靱本町1-13-7 ライフシステム信濃橋ビルB1
TEL06-6479-0717
営業時間18:00~翌1時
定休日日曜日(祝日は不定休。年末年始、夏季休暇有。)